1985年9月19日、フランク・ザッパ先生は米国上院商務・科学・運輸委員会で開催された公聴会において陳述を行いました。この作品はその25周年を記念して発表されたアルバムです。なお、同時に毎年9月19日をフランク・ザッパの日とすることが決まりました。

 「コングレス・シャル・メイク・ノー・ロー」と題されたアルバムには、まず、その公聴会でのザッパ先生の陳述とそれに対する上院議員との意見交換がそのまま収められています。音楽は一切ありません。録音されたテープが復元されているのみです。

 次いで、1986年3月18日に行われたメリーランド州上院議会において、ザッパ先生が行った意見陳述が収録されています。こちらも音楽は一切ありません。この模様は「ビデオ・フロム・ヘル」にも映像で収録されました。連邦議会に比べ、リラックスした雰囲気です。

 残る10曲はザッパ先生の発言を録音したもので、恐らくは自宅のスタジオでの収録でしょう。こちらには「シビライゼーションIII」からの音源や、♪ウィ・アー・ザ・ワールド♪などと呻く声がほんの少しだけコラージュされています。ほとんどは話声だけです。

 一番最後に「シビライゼーションIII」で発表されたシンクラビアによる「レーガン・アット・ビットベリー」が1分ちょっと収められています。というわけで、ザッパ先生の音楽を期待する方にはこの作品は向いていません。全編これ検閲に対する反対意見で占められています。

 ことの発端は、ワシントン・ワイヴスと言われる上院議員の奥さん方が設立したPMRC(父母の音楽対策センター)が、ロックやヒップホップの歌詞を規制し、問題含みのアルバムには「成人向け」シールを貼るよう要求したことにあります。

 PMRCはその主張を広く知らしむべく上院に働きかけて公聴会を開催します。その場に自ら手を挙げて出席し、堂々たる批判を繰り広げたのがザッパ先生です。いの一番に引用したのが合衆国憲法修正第一条、宗教の自由、表現の自由を掲げた項目です。

 議会はそうした自由を妨げるいかなる法律も作ってはならない。アルバムのタイトルはここからとられました。PMRCは法制化は求めないとしていましたが、案の定、メリーランド州議会は法制化を目指しました。そこで再度先生の登場と相成ったわけです。

 2つの陳述とモーゼの十戒をタイトルとする10曲に分けられた発言内容はすべてこの動きに反対する意見です。公聴会の内容は「ザッパ、検閲の母と会う」の「ポルノ・ウォーズ」でコラージュされていました。ここではそのフル・バージョンを聴く事ができます。

 ザッパは辛辣なユーモアを交えながら、一部キリスト教徒の好悪で物事を規制しようとする危険をこれでもかと訴えており、ゴードン議員からは♪とんでもない侮辱だ♪と非難されたりして手に汗握ります。私はザッパ先生が圧倒的に正しいと思います。

 結果的に、ウォーニング・シールは貼られることになりましたが、メリーランドの法律は阻止されました。ザッパ先生の主張は四半世紀を優に超えて、ますます重要になってきています。自主規制に毒されている日本の表現界はこの主張を何度も反芻すべきです。

Congress Shall Make No Law / Frank Zappa (2010 Zappa)