BiSHのセントチヒロ・チッチさんからのご紹介で銀杏BOYZです。今や朝ドラばかりか大河にも出演して、NHKに愛されるに至った峯田和伸を中心とする彼らのデビュー作は2枚同時発売という異例の形がとられました。曲が出来過ぎたんだということです。

 彼らの前身はゴーイング・ステディ、略してゴイステ、2000年近辺に活躍した青春パンクの代表的なバンドです。青春パンクはオリジナル・パンクスからは何世代も若い日本の若者たちによって繰り出された一連の音楽を指します。

 とはいえ、ゴイステもバズコックスのアルバムから名前をとったそうですし、オリジナル・パンクと縁がない訳ではもちろんありません。ともあれ、ゴイステは人気を博したものの、2003年には解散、その後、峯田のソロ・プロジェクトとして始まったのが銀杏BOYZです。

 しかし、まもなくゴイステの安孫子真哉と村井守のリズム・セクションを加え、新たなギタリストにチン中村を加えて4人編成となります。この作品は彼らのデビュー作で同時発売は「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」でした。2枚同時発売です。

 2枚のアルバムはオリコンチャートでは6位と7位という大ヒットを記録しています。ゴイステ時代から人気の高いバンドだったことが分かります。私はこの当時彼らのことを全く知りませんでした。テレビには出られそうもないバンドでしたから。

 本作品もパンクです。冒頭の「十七歳」から典型的なパンクです。「犬人間」、「日本発狂」、「援助交際」、「メス豚」と続く怒涛のパンク。さらに「あの娘は綾波レイが好き」、「SEXTEEN」、「リビドー」までが、リビドー全開の妄想膨らむ青春をぶちまけたパンクです。

 放送禁止用語満載ですし、直截な歌詞が続きますけれども、そのクオリティは高く、ぎりぎりのところで詩に昇華されています。面白いのは日本の歌百選にも入った「四季の歌」や、ジャムの「イン・ザ・シティ」などがそこはかとなく引用されていることです。通っぽい。

 ここでアルバムはラジオ番組のエンディング・テーマともなった美メロの「夢で逢えたら」を置いて、方向修正が図られます。そして、「銀河鉄道の夜」、「惑星基地ベオウルフ」、「夜王子と月の姫」とゴイステ時代の楽曲の再録へと繋がっていきます。

 「銀河鉄道の夜」に続く二曲も宮沢賢治なり松本零士の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしていますから、「銀河鉄道の夜」三部作と言えます。演奏も宇宙的な広がりを感じさせ、突っ走る一辺倒のパンク・サウンドではありません。「夜王子と月の姫」はやはり名曲でした。

 アルバムは「ノー・フューチャー・ノー・クライ」、「人間」と続き、最後にフォーク調の「なんとなく僕たちは大人になるんだ」で幕を引きます。構成もよく考えられて、聴き終わった後の余韻もいいです。一見、猥雑なサウンドですが、とても美しいです。

 さんざん青春をこじらせた人たちなんでしょうけれども、それを音楽にする時に迷いや衒いが一切ない。そこが昔のパンクスとは違います。自然体のパンク。そのためにとてもリアルなサウンドになっています。チッチの心を鷲掴みにするわけです。さすが。

Door / Ging Nang Boyz (2005 初恋妄℃学園)