アランフェス協奏曲は「1939年作曲のロドリーゴの代表作であり、音量の小さなギターとオーケストラとの組み合わせという、20世紀のこのジャンルを切り拓いた画期的な作品」です。ギター協奏曲と言えばまずこの作品が浮かぶほど有名な曲です。

 そして、今やロドリーゴと言えば村治佳織。というわけで、佳織さん二度目のアランフェスです。前回は2000年3月発表のその名も「アランフェス協奏曲」というアルバムで、山下一史指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団との共演でした。

 村治佳織がロドリーゴの元を訪れたのは1999年2月、ロドリーゴが亡くなったのが同年7月、前作の録音が同年12月ですから、大変な状況での演奏であったことと思います。若さと勢いで突っ走ったという印象です。

 それから7年、ロドリーゴの死後もご令嬢のセシリア・ロドリーゴと佳織さんの交流は続いており、佳織さんはもはや半ばスペイン人と言っても過言ではないほどになりました。その中で、満を持してのアランフェス再録音です。

 今回はもちろんデッカからの発表ですが、イギリス録音ではなくて、スペインにてガリシア交響楽団との共演となっています。ガリシア交響楽団は1992年に設立された北西スペインにあるラ・コルーニャ市のオーケストラですから、ディープ・スペインです。

 本作品には、ロドリーゴの最初のギター協奏曲である「アランフェス協奏曲」と、最後のギター協奏曲「ある宴のための協奏曲」が、小品「ヒラルダの調べ」をはさんで収録されています。この構成がまず素晴らしいです。ロドリーゴを弾きつくす村治佳織ならでは。

 本人も、ロドリーゴの青年期と老年期の作品を並べて収録することで、「変わっていくもの変わらないものが明白に感じられること」を意識しています。その狙いは正確に当たっていて、同じような構成の2曲によってお互いが引き立て合っているようです。

 アランフェスは「レコーディング、コンサートと演奏回数を重ね、曲への愛着が増すと共に、演奏する際の余分な力みは抜け、オーケストラと共に演奏する楽しさをより実感できるようになりました」とご本人が語っています。解説としてはこの上ないです。

 マイルス・デイヴィスの演奏でも有名なアランフェスの第二楽章アダージョは、ニーノ・ロータを彷彿させる哀愁のメロディーがイングリッシュ・ホルンとギターによって歌われていきます。これをぴしっと弾きこなすのは大変でしょうが、さすがは佳織さん。見事です。

 「ある宴のための協奏曲」は、「こんなに演奏のむずかしい作品は初めてだ」とギターの名手ペペ・ロメロをして言わしめた難曲です。控えめなオーケストラに押し出されて、縦横無尽にギターが活躍します。デッカらしいまろやかなサウンドでこれまた見事に弾きこなされています。

 スペイン民族風味溢れるロドリーゴ作品を、スペインのディープなオーケストラを引っ張るようにして演奏する日本人村治佳織という図式は考えてみれば凄いことです。もはやスペインの大地と一体化したような演奏は、しつこいようですが見事です。

参照:「クラシック名曲1000聴きどころ徹底ガイド」(音楽出版社)

Viva! Rodrigo / Kaori Muraji (2007 Decca)