なぜかあるはずの3枚目が見当たらないので、今日は4枚目に飛びます。

 村治佳織4枚目はロドリーゴ作品集です。デビュー・アルバム以降、それぞれのアルバムに特色のあるテーマ設定がなされていましたが、今回もまた見事に意表をついた作品が発表されました。彼女にとって一人の作曲家に的を絞ったアルバムは初めてのことです。

 ホアキン・ロドリーゴは1901年に生まれ、1999年に没したという、見事に20世紀をほぼ丸々生きたスペインの作曲家です。ですから、このアルバムが発表された当時、ロドリーゴはまだ高齢ながらも存命中でした。

 このアルバムを聴いたロドリーゴは村治佳織に手紙を書きました。パリに留学中だった彼女はロドリーゴに会いに行っています。亡くなる半年前のことだといいます。ロドリーゴは98歳にしてネクタイを締めてピアノのそばに座っていたそうです。凄いことです。

 後日談はさておき、この作品は、前2作が編曲作品集だったことから、「次回はギターのオリジナル曲で、しかも前3作には入っていない1人の作曲家の作品にスポットをあててみたいという気持ち」で出発したとご本人が書いています。

 そうなると「もうロドリーゴ以外には考えられませんでした」。彼の代表作と言えば知らぬ人のいない名曲中の名曲「アランフェス協奏曲」ですが、そこはあえて外し、「ロドリーゴの埋もれている作品の紹介」もできると思って選曲されています。

 まだ20歳前の佳織さんですが、「今回は選曲も最初から自分でやり、これまで以上にアルバムを作っていくという意識が高かった」と語っています。うーん、さすがです。実に丁寧にキャリアを積み重ねてきています。

 選ばれた曲は13曲で、タイトル曲の「パストラル」のみピアノ独奏用の小品ですけれども、それ以外はすべてロドリーゴが折々に作曲したギター・ソロのための作品です。となると、予想される通り、かなり技術的に弾きこなすのが難しそうな曲ばかりです。

 「ソナタ・ジョコーサ」は、女流ギタリストの花形であったというレナータ・タラゴーに捧げた曲ですし、「春の小鳥」はギターを愛好する医学者高橋功博士と夫人に献呈された曲、「祈りと踊り」は匿名でコンクールに応募してグランプリをとった曲です。

 やはり同時代人だけにいろいろなエピソードがよく知られています。そうなるともっと人気があっても良さそうですが、やはりかなりの難曲なんではないでしょうか。佳織さんはここでも持ち前の江戸前ギターではきはきした演奏でこの難局を乗り切っています。

 「浮き立つリズム、クールな響き、はるかなるスペインの詩」が今回のキャッチフレーズです。スペイン=フラメンコというイメージも若干はあるものの、派手さや陽気さよりも、実直な古典的要素が際立っています。一音一音がキリリと引き立つ演奏がその古典を活かします。

 かなり男前な江戸前ギターであると思います。これほど丁寧かつ大胆に正面からロドリーゴの楽曲に立ち向かう姿は美しいです。ジャケット問題は完全に解決し、凛とした美しさに満ちたアルバムになりました。最初から最後まで充実の一枚だと言えます。

Pastorale / Kaori Muraji (1997 ビクター)