村治佳織セカンド・アルバムです。2枚目とは言ってもまだ17歳、高校生です。ジャケット写真はまだあどけなさが残ります。スタイリストやメイクさんが代わって、今回のジャケットは前作よりは良くなりました。しかし、まだまだ堅い。コスプレっぽいし。

 それはさておき、この作品はタイトルが超有名曲「グリーンスリーヴス」であることに気をとられてはいけません。全曲をルネッサンス期の音楽で構成することは、ギター曲集であることを考えると、かなりの冒険です。当時は恐らく例がないと言われていました。

 普通、美しい天才少女現る、となると超有名ギター曲やヒットした映画音楽から構成してポピュラーな一枚にして、キャラクターを前面に出して売りたくなるものです。普段はギターに興味がない層にもアピールして売り上げを稼ぐ。

 しかし、村治佳織はそんなことはしない。きっちりとテーマを決めて、しっかりとまとめる。しかも、誰も予想もしなかったオール・ルネッサンス曲集です。素晴らしい冒険だと思いますし、チーム村治の心意気を感じます。3枚目、4枚目と続きますよという自信の賜物です。

 そんな素晴らしい企画ですから、たまさかテーマに当てはまった曲の中に「グリーンスリーヴス」のようなポピュラー曲があった事実を捉まえて、それをタイトルに持ってくるくらいの商売っ気は許容範囲であろうと思います。

 本作は副題を「シェークスピア時代の音楽」としています、そもそも現代ギターが確立するのは18世紀末から19世紀前半にかけてのことですから、シェークスピアの時代、すなわち16世紀にはギター曲はほとんど存在していません。

 それでは本作は何かというと、大半がリュート曲です。イギリスを代表するリュート奏者ジョン・ダウランドやフランスのル・ロア、ピエール・アテニャンなどの作品や、古謡や民謡をギターに移して演奏しています。全29曲ですから、いかにも小品集です。

 ギターを習っていると練習で弾く小品に本当に美しい曲が多い。ここに含まれた楽曲はいずれも短い曲ばかりで、それが輝くばかりに美しい。若い佳織さんが恐らくは練習で何回も慈しんで弾いてきたであろう曲の中から選曲されているように感じます。本当に美しい。

 ただ、面白いのは「グリーンスリーヴス」です。小鳥の声を被せる手の込んだアレンジになっていますが、座りも悪いし、明らかに佳織さんのテンションが低い。レコード会社の要請で選ばれたのかもしれません。誰もが知っている名曲ですから。

 ギターはリュート族に属するそうですが、両者はかなり違うように思います。ここに選ばれた曲はギター曲としてはちょっと変わっています。しかし、それがすっと美しく入って来る。江戸前ギターに、リュート的な柔らかで饒舌なタッチが加わった感じです。

 ダウランドの名曲「涙のパヴァン」は演歌のようなと表現されることも多いですが、17歳の若い感性で凛とした響きがします。コケットリーという言葉には賛成しませんが、情感豊かな曲を若さで表現するサウンドは眩しく輝いています。
 
Green Sleeves / Kaori Muraji (1995 ビクター)