「楽器を持たないパンク・バンド」がキャッチフレーズのBiSHから、楽器を持ったパンク・バンドが誕生しました。アユニDのソロ・プロジェクト、ペドロです。アユニのベースを中心に、スクランブルズ系の若手がドラムとギターを担当するスリー・ピース・バンドです。

 アユニが本格的にベースを始めたのは2月だそうですから、アルバム発表まで7か月しかありません。サポートでベーシストがクレジットされていますが、ライブではしっかり弾いていますし、MVでも弾いていますから大したものです。パンクです。

 プロジェクトはアルバム発表まで秘密にされていました。今になってアユニのインタビューを読むとそういうことかと思うことも多いです。例えば、松隈ケンタに布袋寅泰のDVDを持たされて、その歌に影響を受けたとか。楽器をプレイする人へのリスペクトとか。

 松隈も布袋のDVDを渡して「歌い方を真似してみろ」と言ったエピソードについて、「全然似てないんですけど、『直感でぇ~、なんとかぁ~』とか、それっぽく歌い出す。僕の心に刺さりまくったんですよ、『なんて子だ!』って」と語っています。バンド誕生に影響したのかも。

 本作はミニ・アルバムですが、全部で7曲も入っています。いきなりベースで始まる「ゴミ屑ロンリネス」から、最後のエモーショナルな「うた」まで。歌詞は一曲だけ松隈ケンタとの共作はありますが、すべてアユニDが書いています。

 作曲はもちろん松隈ケンタですが、一曲、アユニが共作しています。バンド名からアルバム・タイトル、サウンド作りに至るまで、アユニがプロデュースにも係わっているという徹底ぶり。アイドルの枠を軽々と超えるプロジェクトです。

 サウンドは直接的にはナンバーガール的ですが、それはもう見事なパンクです。それもロンドン・パンク誕生当時の雰囲気があります。クラッシュが♪ロンドンは退屈で燃えている♪と歌っていた頃のパンクの世界。説教臭くないかっこいいパンクの現代版です。

 布袋の影響はよく分かりませんが、アユニのボーカルは危なっかしい雰囲気を漂わせていて、見事にパンクにはまっています。それに彼女の書く詞が素晴らしい。シールに引用されている♪大変良くできません、クソくらえよ♪だけにとどまらない。

 彼女のインタビューを読むと、根が暗いとか、つまらないとか、ネガティブな言葉が出てくることが多い。作ったキャラではなく、それが素のようです。その彼女が♪最高な負け犬人生を♪なんて書いているわけで、心を打たれます。

 父親よりも年上の私に共感されても困るでしょうが、凡百のパンクないしガレージ・バンドの吐き出す言葉よりもずっとリアルですし、ある意味美しい。♪100年後みんな死んでしまうのにね♪と歌う「僕の妹がこんなにかわいいわけがない」アユニDです。

 虚勢をはるのではなく、素のままで、自然体にパンク。日本にもパンクやロックの歌姫は大勢いましたけれども、この娘は新しい。周りに盛り立てられるままに前に進み、極めて自然体でその周りの期待をはるかに超える結果を出す。想像以上に素晴らしいサウンドです。

参照:GIGS 2018年10月号

zoozoosea / Pedro (2018 Avex Trax)