すいません。私も里アンナのことを知ったのはNHK大河ドラマ「西郷どん」です。ドラマ自体には言いたいことがたくさんあるのですが、奄美大島での数回は二階堂ふみの好演もあって見ごたえがありました。美しい奄美の風景は素晴らしかった。

 その感動に大きく貢献したのは里アンナの歌声です。オープニングで流れる伸びやかな声は素晴らしい。ご本人も役者として出演されていて、奄美大島らしさを画面に迸らせるに大きな役割を果たしていたものと思います。

 そんな彼女の歌声に魅せられて、ちょうど発表されたベスト・アルバムを手に入れました。なんとお香入り。プラケースの左側にある余白部分に三本のお香が入っています。取り出さなくても、ちょうど良いくらいの匂いがします。新しい試みです。

 プロフィールによると、里アンナは奄美大島に生まれ、「3才より祖父に奄美の島唄を習いその後島唄の大会で数々の賞を受賞」するほどに成長しました。1997年、18歳の時に奄美民謡大賞で新人賞を受賞して、記念としてCDを制作しています。

 ちなみに1996年の奄美民謡大賞は元ちとせが受賞しています。二人は学年で言えば一つ違いです。ご案内の通り、元ちとせは2002年に「ワダツミの木」がチャートを制する大ヒットして、一躍時の人となっていました。

 里アンナは1998年に上京しますが、プロとしてのデビューは2005年で、「愛・地球博」に抜擢された後でした。その後は「シルク・ドゥ・ソレイユ」の公認ボーカリスト、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のフォンテーヌ役など、次第に活動の幅を広げていくことになりました。

 この作品は、これまでに里アンナが発表した7枚のアルバムやシングル曲から選ばれたベスト・アルバムです。彼女のこれまでの活動を網羅するものになっています。ただし、当たり前ですが、フォンテーヌは入っていません。

 里アンナは「精霊の宿る声」がキャッチフレーズになっています。伸びやかなその声には確かに精霊が宿っています。本当に素晴らしい声です。奄美の島唄と言えば、こぶしが真っ先に浮かびますが、彼女の場合は、むしろフラットなロングトーンが美しいです。

 グィンと呼ばれる声が一瞬ひっくり返るこぶしももちろん使われており、とても魅力的ですけれども、それほど多用されているわけではなく、素直な伸びやかさが持ち味だと思います。それで、「心に響く奄美島唄の唱法が愛しい想いを伝える!」です。

 編曲に名を連ねているのは、渡辺雅二、菅井えり、永島広の三人。大括りにするとヒーリング系のアーティストです。当然、トラックも打ち込みリズムのヒーリング系になっています。三線や箏などは入っているのですが、基本はデジタル系。

 ここは島の太鼓の方が良かったのではないかなと思ってしまいました。二人といない「精霊の宿る声」ですから、ケンムンも参加する勢いで島唄寄りの姿もいいし、ポップスとしての冒険をするもよし。この声にはエッジの効いたサウンドも似合うはずです。

Best Collection / Anna Sato (2018 Pacific Moon)