ブロンディと言えば「コール・ミー」。しかし、「コール・ミー」は映画「アメリカン・ジゴロ」のための曲ですから、ブロンディのアルバムには収録されていません。そこで、俄然、初収録となったこのベスト・アルバムが光を放ちます。お得感が半端ない。

 ブロンディはパンク・シーンから登場しましたが、3枚目のアルバムからヒット・メイカーのマイク・チャップマンを迎えて大ヒットを連発するようになりました。チャップマンはスージー・クワトロやスウィートを手掛けており、さらにブロンディ、ザ・ナックでその名を不動にします。

 このベスト・アルバムには全米1位を記録した楽曲が4曲収録されています。3枚目の「恋の平行線」から「ハート・オブ・グラス」、5枚目の「オートアメリカン」から「夢みるNo.1」と「ラプチャー」、そして問題の「コール・ミー」です。

 「ハート・オブ・グラス」はディスコ・サウンド、「夢みるNo.1」はレゲエ、「ラプチャー」はラップを大胆に導入した楽曲です。「ハート・オブ・グラス」こそ、モータウン崩れのブロンディ節が健在ですが、レゲエ、ラップはまさにチャップマン色が濃いです。

 レゲエはともかく、ラップはこの当時はまだまだニューヨークのアンダーグラウンド・サウンドに過ぎませんでした。デボラ・ハリーの魅惑のラップはこれを陽の当たる場所に引き出すにあたり、大きな貢献をしました。ラップ本史では傍流の話でしょうが。

 そして「コール・ミー」はチャップマンでもなく、ジョルジォ・モロダーがプロデュースを担当した威勢のいいディスコ曲で、特徴的なメロディーが日本人受けするブロンディの代名詞とも言うべき名曲です。これしか知らない人も多いのではないでしょうか。

 アルバムにはチャップマン時代前の曲も含まれていますが、「愛してほしい」はチャップマン・ミックスとなっており、オリジナルに比べるといかにもプロ仕様になっています。ヒットメイカーとしてのブロンディらしい解釈と言えるでしょう。パンク対プロ。

 この作品はビデオ・テープでも発売されています。要するに全曲にMVがある。MTVが最も熱かったころの作品であることが分かります。ビデオに録りがいのあるフォトジェニックなハリーを擁するブロンディはMTVの申し子とも言えます。

 デボラ・ハリーのことを語るのは難しいです。この当時、ハリーは新世代のセックス・シンボルとしてもてはやされていたことは確かです。しかし、このしばらく後に女性歌手に対する世間の観念を完全に覆すマドンナが登場しました。パラダイムが変わってしまったわけです。

 そうなると、先鋭的ではありましたが、結局はオールドスクールに属するザ・セックス・シンボルのハリーの立場が何とも中途半端に見えてしまいます。結局、ブロンディはしばらく後に一旦リセットして、地に足の着いた形で新たな道を歩み始めます。

 そんなわけで、私にはブロンディはパンクとマドンナの間に咲いた徒花のように見えてしまい、しみじみといい曲だなあと思いながらも、一抹の寂寥感が込み上げてきます。ちょうど70年代から80年代への端境期でもありましたし。合掌。
 
The Best Of Blondie / Blondie (1981 Chrysalis)