私の大学時代ですから、ちょうど1980年前後のこと、友人M君はバンドでベースを弾いていました。何でベースなのかと尋ねますと、本当はギターをバリバリ弾きたかったけれども、バンド内の競争でやむなくベースに回ったのだということでした。

 しかし、結果的にそれは良かった。何と言ってもブラジョン以降、ベースは花形楽器なんだと嬉しそうにチョッパーを決めながら語っていました。鏡の前で何度もチョッパーの練習をしたんだそうです。この当時のアマチュア・ベーシストたちの典型的なお話ではないでしょうか。

 ブラザーズ・ジョンソンは、兄ジョージと弟レオンのジョンソン兄弟による2人組バンドです。男性二人組だとボーカル・デュオっぽいですが、そうではありません。二人は歌も歌いますが、なによりもジョージはギター、レオンはベースの名プレイヤーです。

 レオンは「雷親指」、ジョージは「稲妻の一舐め」と日本語に訳すと間抜けながら、英語だとそれぞれ「サンダー・サム」、「ライトニング・リックス」ととてもカッコいい称号を得ている二人です。特にレオンは親指を叩き付けるスラップ・ベース奏法、別名チョッパーの始祖です。

 確かにそれまでのこねくり回すような指回しに比べると派手でカッコいいです。ルイスはその奏法のために「自らナイフで親指に傷を付け、皮膚を堅くし」ていたというエピソードをDJATOM氏がライナーで披露しています。鏡で練習するだけでは足りん。命がけです。

 彼らはロスアンゼルス出身で、高校時代からバンド活動を始めていたそうですが、20歳になるかならないかの時にクインシー・ジョーンズに出会い、ツアーに同行した上にレコード・デビューまで果たします。よほど気に入られたのでしょう。

 このアルバムは彼らの3枚目のアルバムにあたります。プロデュースはもちろんクインシー。その人脈で集められたTOTOのメンバーやデヴィッド・フォスターなどを含む豪華アーティストをバックに兄弟のプレイが冴えわたっています。

 この作品からは「エイント・ウィー・ファンキン・ナウ」のシングル・ヒットを生み、アルバム自体は全米7位を記録する大ヒットとなっています。「ファンキン」の名の通り、ファンク色の強いサウンドですが、クインシーらしい洗練された味わいが支持されたものと思います。

 そう思って聴くからというのもあるでしょうが、とにかくルイスのベースがバッキンバッキンなっていてカッコいいことこの上ない。ジョージのギターもよく聴くとパッツンパッツン鳴っているのですが、印象は薄いです。それよりもゲストのホーンやキーボードが目立ちます。

 どこまでも洗練されたクインシー・サウンドが展開しているんです。Pファンクのような曲もありますけれども、どす黒さは薄く、比較的つるりんとしています。ゴリゴリのベースも禍々しいというよりは、スポーティーに響いてきます。

 ルイスはその後マイケル・ジャクソンの「スリラー」を始めとするメガ・ヒットに参加する定めです。この当時、ディスコ・サウンドを究極まで洗練していくクインシーの秘蔵っ子として、ブラジョンはディスコ・サウンドの一つの完成形を描き出したのでした。

Bram!! / The Brothers Johnson (1978 A&M)