ブライアン・イーノによる新しいスタイルの音楽です。その名も「ドロップ」。アルバム・タイトルではありますが、いわばロックやジャズといったジャンル名となることを意図した命名です。残念ながら定着しませんでしたが、その意気込みは見上げたものです。
イーノはこのアルバムの制作には3年をかけており、新しい音楽の「ベン・ハー」だと述べています。そして、この作品は「現代LPのセシル・B・デミルであり、アンビエントのセシル・ローズであり、シンセサイザーのセシル・テイラーとしてのイーノの地位を固めた」のです。
3人のセシル。映画草創期の大立者、南アフリカの帝王とフリー・ジャズの先駆者を並べて、この作品への甚大な思い入れを吐露しています。イーノにとって、極めて重要な意欲作だったことが分かります。3年かけただけのことはあります。
また、イーノは「遠い星からやってきた異星人が、ジャズを言葉で説明されて、それを元に何とかやってみた」ような音楽だとも説明しています。そうなんです。この作品はイーノ流に解釈されたジャズ、当初のアルバム・タイトル通りの「アウトサイダー・ジャズ」です。
さらに、長い間気にかかっていたという二つの糸がここに編み込まれています。一つはアフリカ音楽、とりわけフェラ・クティのアフロ・ビートです。イーノの持っているアルバムの中ではフェラ・クティのアルバムの数がどのアーティストよりも多いということです。
イーノは特にそのパーカッシブでかつメロディックなベースが気になっているようです。もう一つはジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラ。彼らの音楽を構成する「メロディーの迷宮」、複雑で長いメロディーです。
ジャズ、アフロ・ビート、フュージョン。考えようによっては、これらを組み合わせた音楽などは結構いろいろありそうです。しかし、イーノは人がやっていないことをやるということにプライドをかけていますから、イーノ流に全く新しい音楽に仕立てています。
アンビエント仕様の時には一曲一曲が長いですが、ここでは全17曲、1曲を除き短かい曲を連ねてさまざまな音の響きを堪能させます。それに何よりもリズム・パートが積極的に導入されていることが目を惹きます。アンビエントともポップとも異なるイーノ、ザ・ドロップです。
フェラ・クティやジョン・マクラフリンの影を探していると、あっという間にアルバムが終わってしまいます。そこここに影が見つかるのですけれども、もちろんそのまんまのサウンドが出てくるわけではありません。フレイバーを感じるところが得も言われず楽しいです。
サウンド自体は全体にそこはかとなく人工的な香りがする音像です。シンクラビアを使ったようなサウンドで、アコースティック楽器のような音にも電子の網がかぶさっています。さすがは異星人のジャズ、不思議な触感です。
同報されている当時の記事の中でイーノは、プロデューサーやエンジニアなどの全く係わらない、レコードを作るのではない、音楽を作る人々のことを記しています。それこそがアーティストの最小限の野望であるべきだと。その言葉を噛みしめて聴きましょう。
The Drop / Brian Eno (All Saints)
イーノはこのアルバムの制作には3年をかけており、新しい音楽の「ベン・ハー」だと述べています。そして、この作品は「現代LPのセシル・B・デミルであり、アンビエントのセシル・ローズであり、シンセサイザーのセシル・テイラーとしてのイーノの地位を固めた」のです。
3人のセシル。映画草創期の大立者、南アフリカの帝王とフリー・ジャズの先駆者を並べて、この作品への甚大な思い入れを吐露しています。イーノにとって、極めて重要な意欲作だったことが分かります。3年かけただけのことはあります。
また、イーノは「遠い星からやってきた異星人が、ジャズを言葉で説明されて、それを元に何とかやってみた」ような音楽だとも説明しています。そうなんです。この作品はイーノ流に解釈されたジャズ、当初のアルバム・タイトル通りの「アウトサイダー・ジャズ」です。
さらに、長い間気にかかっていたという二つの糸がここに編み込まれています。一つはアフリカ音楽、とりわけフェラ・クティのアフロ・ビートです。イーノの持っているアルバムの中ではフェラ・クティのアルバムの数がどのアーティストよりも多いということです。
イーノは特にそのパーカッシブでかつメロディックなベースが気になっているようです。もう一つはジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラ。彼らの音楽を構成する「メロディーの迷宮」、複雑で長いメロディーです。
ジャズ、アフロ・ビート、フュージョン。考えようによっては、これらを組み合わせた音楽などは結構いろいろありそうです。しかし、イーノは人がやっていないことをやるということにプライドをかけていますから、イーノ流に全く新しい音楽に仕立てています。
アンビエント仕様の時には一曲一曲が長いですが、ここでは全17曲、1曲を除き短かい曲を連ねてさまざまな音の響きを堪能させます。それに何よりもリズム・パートが積極的に導入されていることが目を惹きます。アンビエントともポップとも異なるイーノ、ザ・ドロップです。
フェラ・クティやジョン・マクラフリンの影を探していると、あっという間にアルバムが終わってしまいます。そこここに影が見つかるのですけれども、もちろんそのまんまのサウンドが出てくるわけではありません。フレイバーを感じるところが得も言われず楽しいです。
サウンド自体は全体にそこはかとなく人工的な香りがする音像です。シンクラビアを使ったようなサウンドで、アコースティック楽器のような音にも電子の網がかぶさっています。さすがは異星人のジャズ、不思議な触感です。
同報されている当時の記事の中でイーノは、プロデューサーやエンジニアなどの全く係わらない、レコードを作るのではない、音楽を作る人々のことを記しています。それこそがアーティストの最小限の野望であるべきだと。その言葉を噛みしめて聴きましょう。
The Drop / Brian Eno (All Saints)