ジャケ買いです。インドのデヴォーショナル・ミュージックの中でも、これほど見事なジャケットはそうありません。サドゥーと呼ばれるヒンズー教の修行者を切り取って白地に配置した構成は見事です。しかも微妙に太陽が当たっているところが素晴らしい。

 インドではボリウッドなど映画音楽を中心とした大衆音楽とは別に、古典音楽が生活に根付いています。さらに、古典音楽をベースとしながらも宗教色の強い、神に捧げるスピリチュアルなデヴォーショナル・ミュージック、宗教歌謡が大そう盛んです。

 特別の場所に行かなくても、たとえばタクシーに乗ったら運転手がテープを回している、そんな形で出会う音楽は、ボリウッドよりもむしろ宗教歌謡の方が多いのではないでしょうか。生活の一部として当たり前にある。

 この作品は真正面から取り組んだ宗教音楽です。歌われているのは8世紀の聖人シャンカラが残した詩作です。サンスクリットで書かれた詩が、そのままサンスクリットで歌われます。ブックレットには英語訳も付けられていて親切です。

 シャンカラの時代は、まだ仏教やジャイナ教が力を持っていました。その中でシャンカラはヒンズー教の哲学を打ち立てた偉人です。南部ケララ州出身のシャンカラはインド中を旅し、4カ所の僧院を打ち立てました。そこでバラモン教の聖典ヴェーダを復活させていきます。

 彼は、ヴェーダの中でもウパニシャッドを引き、この世にはたった一つの真実であるブラフマンがあるだけだと説きます。それは知識では知ることはかなわず、神秘体験によってのみ奥義に迫ることができます。至福の意識を体現できるよう修行に励めと。

 その彼の教えを歌うのは、アパルナ・パンシカル、彼女は音楽一家に生まれ、10代の初め頃から師匠について古典音楽を修行したボーカリストです。数々の賞に輝き、古典音楽からセミ・クラシカルまでをこなすだけでなく、映画音楽の作曲もしています。

 作曲はバルガヴ・ミストリーです。彼も古典音楽の声楽から学び始めた人ですけれども、やがてサロードに誘われ、大師匠に師事してサロードを極めました。この作品ではもちろんサロードを弾いています。サロードは北インドの古典ではシタールと並ぶ弦楽器です。

 サウンドは、アパルナのボーカルとバルガヴのサロードが中心で、それ以外にはドローン的なキーボードとクレジットはありませんがタブラが少し加わる程度です。ですから、約1時間にわたってピュアなデヴォーショナル・ミュージックが堪能できます。

 全部で6曲、いずれも詩に合わせて選ばれたインド古典音楽の旋法であるラーガを元に曲が作られています。極めてオーソドックスなインド音楽です。ボーカルとサロード、それぞれの美しい響きが絡み合って見事なデトックス効果です。

 決して抹香臭い音楽ではなく、深遠な詩が現在進行形で歌われていきます。サンスクリットですし、お経だと思って間違いありませんが、美しいサウンドがお経の中身を掘り下げていくという、お経本来の姿がここにあります。スピリチュアルが降りてきます。

Shivoham by Shankara / Bhargav Mistry & Aparna Panshikar (2005 Silk Road)