日本発売当時の帯には「今アメリカで人気最高のビリー・ジョエルを知ってる?」と書かれていました。日本人にとってはビリー・ジョエル自身が文字通り「ストレンジャー」であったことを表していて面白いです。

 ビリー・ジョエルは、当時、まるで彗星のように現れた存在でした。やがて彼に長い下積み生活があると知らされると、こんなに良い曲を書くアーティストがまだまだ埋もれているのではないかと、今度はアメリカ音楽界の底知れぬ懐に驚かされたものです。

 「ストレンジャー」はビリーにとっての大ブレイク作品です。「ピアノ・マン」のヒットはあったとは言え、ポール・サイモンを手掛けて人気のフィル・ラモーンを迎えたこの作品は結果的に1000万枚を超える歴史的なアルバムになりました。

 まずは「素顔のままで」です。王道中の王道を行くバラードで、グラミー賞最優秀レコード賞を取りましたし、ビリーの名を世界に知らしめました。日本でも大いに人気で、当時高校生の私も彼女にこの詞を送ったものです。おー、恥ずかし。

 この曲はまるで10ccの「アイム・ノット・イン・ラヴ」のようなエフェクトがかかっていますし、ジャズ・ジャイアンツの一人フィル・ウッズのアルト・サックスが泣かせます。美メロに分かりやすい胸キュン歌詞、そして万全のアレンジ。名曲ですね。

 意外なことにアメリカではシングル・カットされていないタイトル曲は、日本ではオリコン2位にまで上がる大ヒットになりました。日本人はバラード好みのはずなのに、むしろこちらのロックンロールの方が人気があるとはまさに意外です。

 ピアノから口笛のイントロの後、印象的なギターが入ります。私は「ルビーの指輪」を想ってしまいますが、そちらはさほど似ておらず、むしろその後のアレンジが西城秀樹の「ギャランドゥ」にそっくりです。どれだけ日本でこの曲が人気があるのかっちゅうことです。

 口笛とピアノのイントロはアルバムの締めにも出てきますから、アルバムは全体にコンセプト・アルバム的な空気を漂わせています。ビリーのツアー・バンドの面々を起用していて、息の合った演奏になっていることもここに拍車をかけています。

 「素顔のままで」の成功でバラード歌手のイメージが付きまとうことになるビリーは、自身がロックン・ローラーであることを殊更に主張するようになります。もともとこのアルバムとてほとんどがピチピチしたロックンロールですから、イメージというのは恐ろしいものです。

 当時のイメージとしては、出てきたばかりなのに、すでに大御所。絵巻物となっている「イタリアン・レストランで」の大物感を見よ。発表した途端にスタンダードとなったアルバムの誕生をリアルタイムで経験することはそんなにないことです。大変嬉しい。

 アグレッシブな歌声で、丁寧に歌われるメロディーは練りに練られていて、時代を超えていきました。実直に音楽を追及するビリー・ジョエルの姿勢は尊いものだと思います。まるで「ロッキー」のようなボクサー・ビリーの真骨頂を発揮した名盤です。

The Stranger / Billy Joel (1977 Columbia)