すでに「ダブ・ルーム・スペシャル」に予兆がありましたけれども、ついにフランク・ザッパ先生の幻のTV番組「ア・トークン・オブ・ヒズ・エクストリーム」がDVD化されました。ついでに目出度くそのサウンドトラックもCD発売となりました。この作品です。

 これは1974年8月27日にロスアンゼルスのKCETで行われたフランク・ザッパ&マザーズのライブを収録したものです。ザッパ先生によれば、「自分の金と自分の時間を使って収録し、テレビ局に持ち込んだ」ものです。この時代ですから先駆的な出来事です。

 しかし、アメリカの放送局は放送を拒否しました。フランスとスイスではゴールデンタイムに放送されて大反響を得たそうです。「これは恐らく人類が制作してきたビデオ作品の中でも最高の作品の一つだ」と先生は自信たっぷりです。

 ご案内の通り、このお蔵入り作品のかなりの部分は1982年の「ダブ・ルーム・スペシャル」にて陽の目を見ています。しかし、ここにはほぼ完全な形で復活したわけですから、ファンの私としてはとても新鮮な心持がいたします。

 サントラはほぼDVDを忠実に再現しています。「ダブ・ルーム・スペシャル」とは曲順もミックスも違います。とはいえ、ここでの全11曲中7曲は「ダブ・ルーム・スペシャル」と同じ演奏ですから、そこは予め了解しておく必要があると思います。

 バンドはいわゆる1974年バンドです。ギターはザッパ先生一本、リード・ボーカルはナポレオン・マーフィー・ブロック、キーボードはジョージ・デューク、パーカッションにルース・アンダーウッド、ベースはトム・ファウラー、ドラムにチェスター・トンプソン。

 こじんまりした編成ですけれども、もちろん演奏テクニックは凄いですし、人気の高いラインナップです。全く同じ編成での伝説のコンサートを丸ごと収録した2枚組「ヘルシンキ・テープス」が代表作であると言ってよいでしょう。

 人気の高いこのバンドの映像が拝めるだけでもありがたい話です。特に紅一点ルース・アンダーウッドのヴィブラフォンを始めとするパーカッション捌きは素晴らしい。テープを切り貼りする際の時計代わりともなっているそのプレイはザッパ先生から絶大な信頼を得ています。

 もちろん芸人ナポレオンの怪しげなパフォーマンスと意外と真面目なジョージ・デュークも見ものです。ゴリラの着ぐるみが出てきたりと芸能気分も多分に残している上に、超絶粘土アートを編集で加えたりして飽きさせない作りなのに拒否するとはアメリカも保守的でした。

 サウンドはもちろん素晴らしいわけですが、今回、おやっと思ったのが「ダブ・ルーム・スペシャル」と被っていない曲のひとつ「ピグミー・トワイライト」です。ここでのザッパ先生のギター・ソロに驚かされました。

 というのも先生らしからぬミック・テイラーのような哀愁のロック・メロディーを流麗に弾かれているんです。これだけ聴くと先生とは分からない。だから省かれたのかもしれませんが、ザッパ先生の意外な一面を知ることが出来て満足です。たとえ半分以上重複していても。

A Token Of His Extreme / Frank Zappa (2013 Zappa)