働く必要もない大金持ちの息子は何をするでもなくだらだらと生活しているものなのでしょうか。そんなお金持ちの友だちもいないので、実際のところは分かりませんが、インドにはそんなウルトラ金持ちとその息子がたくさんいるようです。

 この映画は「目を覚ませシド!」、シド君に奮起を促す思春期ヒューマン・コメディです。シドを演じるのはランビール・カプール、インド映画界に燦然と輝くカプール一族直系の俳優です。祖父はラジ、父はリシ、いずれもスーパースターです。

 ランビールはこの作品での演技が高く評価されて一躍スターダムにのし上がりました。共演女優が良かった。ミスなんちゃらが並ぶボリウッド女優界にあって、演技派として定評のあるコンコナ・セン・シャルマが相手役を見事に務めました。

 映画自体は評論家受けもよかったですし、興行的にも大成功を収めました。ランビールは頼りないいいところのおぼっちゃんを演じさせれば右に出る者がいないことに皆がようやく気づきました。いや、本当にそのまんまです。

 サウンドトラックの方も評価が高く、大いにヒットしました。音楽を担当しているのはシャンカル・エヘサーン・ロイの3人組です。2000年代に入ってからボリウッドで大活躍を始め、この頃にはすでに大人気のトリオでした。

 もともとインド古典の素養のあるシャンカル・マハデヴァンと、アメリカで音楽を勉強したエヘサーン・ヌーラニ、欧米の音楽に親しんできたロイ・メンドンサの三人が意気投合して、一緒に音楽活動をするようになったのがこのトリオです。

 それぞれのバックグラウンドがうまく表れたのが彼らのサウンドです。たとえば本作のタイトル曲は、軽快なエヘサーンのギターで始まり、ロイの西側ポップス的なサウンドが背骨となって、シャンカルのインド的ながらもしゅっとしたボーカルが響きます。

 うまくポップスとインド風味が混じり合っています。そこが一味違います。シャンカルが歌うということもあるのですが、プレイバック・シンガーも比較的地味な人選です。ボリウッドの王道からは少しはずれたところにあるのが魅力の一つです。

 ただし、本作品の中で最も有名になった「イクタラ」という曲のみはトリオの作ではなく、アミット・トリヴェディの作品です。彼はまだデビューして間もないボリウッドの音楽家で、本作ではバックグラウンド・スコアを担当しています。

 「イクタラ」は洋楽的雰囲気が漂うこの作品にあって、唯一のスーフィー歌謡です。インド亜大陸の風が吹きます。この曲を歌う女性カヴィタ・セットは、本作でインドのフィルムフェア・アウォードにて最優秀女性プレイバック・シンガーに輝きました。

 決して大作ではなく、わずか5曲のミニ・アルバム的なサントラですけれども、むしろそこが小粋です。軽やかなギターを中心とした作品なので、重めの作品が多いボリウッドの中にあって、小さいながらもきらりと光る気持のよいアルバムです。

Wake Up Sid! / Shankar Ehsaan Loy (2009 Sony BMG)