「全世界のアーティストが共演を熱望する、マジで危険なビート・エイリアン」、クリス・デイヴのソロ・プロジェクトのデビュー作品です。発表はブルーノートからということで、とりあえずジャズに分類しておきましたが、あくまで便宜上です。

 クリス・デイヴはドラマーです。1973年にテキサス州ヒューストンに生まれています。ですから、もう40代、彼が進学したヒューストンの有名芸術高校ではビヨンセやロバート・グラスパーの先輩に当たります。

 ソロ・デビューとしては遅咲きになりますが、彼のこれまでの経歴は華やかです。何といっても特筆すべきはアデルの「21」でしょう。さらに、マックスウェル、ディアンジェロ、エド・シーランやジャスティン・ビーバー、さらには宇多田ヒカルとヒット作が並びます。

 ここまでヒット作が並べば、まさに全世界のアーティストが共演を熱望するのも道理です。彼のドラムの本懐はどこにあるかと言えば、後輩ロバート・グラスパー・エクスペリメントの初代ドラマーとしての参加でしょうか。

 2013年にグラミー賞を受賞した傑作「ブラック・レディオ」のドラムは「『まるでJ Dillaの作るビートのよう』と音楽ファンの間で話題を集め」たと公式サイトに書かれています。この表現はとても的確に彼の音楽を言い当てています。

 ソロ・デビュー作となるこの作品の印象を一言で言うと、やはりJディラです。夭折の天才Jディラはドーナツ盤とサンプリングを駆使してビートを組み上げているわけですが、ここでクリス・デイヴはリアルタイムでドラムを叩いてビートを作りだしています。それなのに。

 ロックのドラマーによるソロ・アルバムを想定するとまるで違います。どんどこドラムを叩くのではなく、楽曲の背骨となる複雑怪奇で千変万化のリズムを軽やかに置いていきます。何とも摩訶不思議で美しい。

 トニー・ウィリアムスのカバーが1曲ありますが、確かにウィリアムスの位置づけに近いかもしれません。一方で、私はクリスのドラムを聴いて真っ先に同じトニーでもアフロ・ビートの創始者トニー・アレンを思い出しました。

 「ジャンルの壁を超越した切れ味抜群のコズミック・サウンドを味わえる」作品は、生演奏を中心に組み立てられているのですが、ライブ的であるとともに作り込まれてもいて、何とも新鮮な味わいです。ボーカルの使い方もとにかく見事。

 この作品には、総勢50名のアーティストが参加しています。ロバート・グラスパーを筆頭に「現代ミュージック・シーンの最前線で活躍するミュージシャン/DJが参加」しているとのことで、これをきっかけに勉強したいと思います。

 ドラムヘッズは、「普段はシンガーの後ろでバンドの一員として演奏している自分の周りの敏腕たちをフックアップするためのバンドだ」とクリスは言います。いちいち音が気になってきますから、その意図は十二分に生かされました。凄いアルバムです。

Chris Dave and the Drumhedz / Chris Dave and the Drumhedz (2018 Blue Note)