「セナゴーが振る、ゲッベルスの『サンプラー組曲』&フランク・ザッパの管弦楽作品!」ということで、直輸入盤ではありますが、国内でも発売になりました。最近、この直輸入盤という形が増えてきたように思います。危機に瀕するCDの新たな形として頑張ってほしいものです。

 本作品にはドイツの作曲家ハイナー・ゲッベルスの「サンプラーと管弦楽のための組曲」とフランク・ザッパのオーケストラ作品が収められています。演奏はデンマークの実力派トマス・セナゴー指揮のノルウェー放送管弦楽団です。

 ゲッベルスの曲は、「サロゲート・シティ(代理都市)」という作品の一部です。ここは想像上の都市を歌や語りを交えて描写していく大作です。グラミー賞にもノミネートされているといいますから、世の中の評判も高い。

 ここにはその中から「サンプラーと管弦楽のための組曲」が演奏されます。全部で10のパートからなるバロックを模した組曲で、長いものでも6分弱。それぞれのパートは大きく異なる表情を見せます。都市はさまざまな顔をもつということです。

 題名の通り、サンプラーが使われています。聴くと分かりますが、とてもオーケストラの音とは思えない音があちらこちらに現れます。それは機械の騒音だったり、電子音であったり、要するに都市に存在する雑多な音が拾われて、楽曲の一部として使われているんです。

 面白いのは「シャコンヌ」で使われるユダヤの詠唱カントールです。人の声がサンプリングされてオーケストラの演奏と重ねられています。都市の中にも瞑想にふける静かな空間があることを思い出させるには効果的な使い方です。

 ゲッベルスはあらゆる因習とあらかじめ組み込まれている期待を脱構築することを目指しているとされています。サンプラーの使用などはまさにその意図に叶います。さらにこの作品は彼がブレヒトに影響を受けたと公言する舞台の人でもあることを思い起こさせます。

 ゲッベルスの作品に比べると、ザッパ先生の作品はとても聴きやすいのが面白いです。ここでは先生の名作群、「ドッグ・ブレス・バリエイションズ/アンクル・ミート」、「デュプリーの天国」、タイトルにもなった「パーフェクト・ストレンジャー」などが収録されています。

 「ストリクトリー・ジェンティール」が収録されていないのが残念ですけれども、ザッパ先生のオーケストラ作品を一望できる選曲です。「Gスポット・トルネード」まであります。サンプラーも使わず、正々堂々正面からのオーケストラ作品ばかりです。

 演奏するノルウェー放送管弦楽団はノルウェーの誇る名門で、オスロで開かれるノーベル平和賞受賞式には必ず演奏を披露することで名高いです。この作品はライブ録音で、楽しげな丸みを帯びた音が素敵です。ザッパ作品の新しい魅力を発見しました。

 ジャケットに使われているのはブランダーバスなるオスロのアート集団による「ファド&エセ」と題された写真集からの何枚かの写真です。サウンドとはマッチしているようにも思えませんが、これはこれで不気味極まりなくて息をのみます。ノルウェー恐るべし。

Perfect Stranger / Thomas Søndergård (2014 Lawo)