ぼーっとしていたら、「透明感のあるピアノと躍動するカリビアングルーヴが胸を打つクレオール・ジャズの新星、待望の来日公演!」を見逃してしまいました。残念なことをしてしまいました。やっぱり私には雑誌版の「ぴあ」が必要です。

 グレゴリー・プリヴァに興味を持ったのは、カリブ海の音楽に魅せられたギタリスト小沼ようすけと共演していることよりも、彼の父親がマルティニークのマラヴォワのピアニストだと聞いたことの方が大きいです。マラヴォワ、大好きです。

 独学でピアノを学んだ父はグレゴリーにはちゃんとしたピアノ教育を受けさせています。6歳の頃から10年間、クラシック・ピアノを学んだグレゴリーですが、やがてドロップ・アウトしてジャズの道に進んでいきました。基礎はできたからもうよかろうと父も納得したのでしょう。

 グレゴリーはパリを拠点にジャズ・ピアニストとして活動し、ラーシュ・ダニエルソンのバンドでアルメニアのティグラン・ハマシアンの後任として活躍する傍ら、リーダー作品をこれまでに3枚発表しています。この「ファミリー・ツリー」が4作目になります。

 「数年前、自分の家系図を勉強してみようと思い立ったんだ」とグレゴリーは書いています。カリブ海のフランス領マルティニークで生まれた彼ですが、ご先祖はアフリカ、ヨーロッパ、インド、中国からやって来たのだそうです。

 それぞれの文化は今も生きており、それが同時にパーフェクトなバランスで共存している、それがクレオールの文化なんだと自分探しは意味のある結果に辿り着きます。異なる伝統、異なる世界観が混じり合って、暗黒の歴史も明るく美しい何かに生まれ変わりました。

 フランス最高のピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニに大きな影響を受けたグレゴリーは、やがてマルティニークや隣国グアドループの音楽を再発見し、やがて「伝統音楽とジャズを融合させる方法を模索するようになったんだ」と語っています。

 実際に伝統音楽のミュージシャンとの共演も多いグレゴリーが、今回こだわったのは「典型的なピアノ・フォーマットで、これまでにやってきたことを表現したい」ということでした。ベースとドラムにピアノというシンプルな編成で、カリブの風香るジャズを演奏しています。

 相棒に選んだのは、ジョー・ザヴィヌルのプロジェクトに参加していた超絶技巧のベーシスト、リンレイ・マルト、マルティニークの伝統音楽「ベレにも通じた若手ドラマー」ティロ・ベルソロの二人です。この二人、かなりカッコいいです。

 ベレの典型的なリズムや現地のスローなダンス音楽ズーク・ラヴ、さらにはダンスホール・レゲエなど、「音楽家としては斬新なリズムを取り入れたり複雑な試みをいろいろとやったりしてはい」て、それが匂いたつカリブの風になっています。

 しかし、ダニエルソンがミシェル・ルグランを引き合いに出していることでも分かる通り、生き生きとしたクレオール・サウンドであると同時に、流麗な流れるピアノはフレンチ・ジャズでもあって、そのバランスがたまらなく美して気持ち良いです。ライブ、悔やまれます。

参照:CDジャーナル2018年1月号(吉本秀純)

Family Tree / Grégory Privat Trio (2016 ACT)