手元の大辞泉によると「初老」とは「もと、40歳の異称」なんだそうですね。今や寿命が延びたおかげで、還暦前の方々が初老だと言い張ってもほとんど違和感が無くなってきました。平和な世の中に乾杯したいと思います。

 ショローCLUBは、日本ジャズ界の偉人三人、ドラムの芳垣安洋、ギターの大友良英、ベースの不破大輔からなるトリオです。バンドが生まれたきっかけは、本作品のプロデューサーである脇田妙子が同い年の3人でライブをやってくれと頼んだことだそうです。

 バンド名も日本のポップ・ユニット、テニスコーツの植野隆司が付けたそうで、「著しく自主性がない」と大友は話しています。さすがに名門ショーロ・クラブには仁義をきったそうで、「しょうもないことをするな」と言われながらも定着しました。

 このアルバムはショローCLUBの初ツアーとなる「回春行脚2016」の名古屋編から「選りすぐりの演奏を収録した待望のCD」です。ゲストに元ボアダムズの山本精一を迎えたステージです。発売は地底レコード、早いもので地下71階に達しました。

 三人は付き合いが20年以上あり、不破大輔の渋さ知らズやらなんやらでそれぞれ共演もしていて、「新結成という意識は全く無」くて、「日常ですよ」という立ち位置です。三人とももう「初老」ですし、ここまでの話の抜け具合だけで、もう私は満足です。ほぼ同級生ですし。

 アルバムはまずオーネット・コールマンの「ロンリー・ウーマン」から始まります。どしゃどしゃとしたフリー・ジャズ全開です。この系統では一つ飛んで三曲目のその名も「セッション」があります。どちらも山本を加えた大セッションです。

 二曲目のブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」、これが秀逸です。弓で弾いているような大友のギターの音色もいいし、後半のグルーヴ全開の展開が素晴らしすぎます。今日は一日中この曲が頭の中を流れていました。彼のギターをこんなに聴いたのは初めてかも。

 アルバムは、チャーリー・ヘイデンの「ファースト・ソング」で胸を焦がし、作詞石川啄木、作曲不破大輔のアシッド・フォーク的な「ひこうき」、さらに大友と山本共作のまるでプログレな「SORA」と二曲のボーカル曲で、かなり雰囲気を変えて終わっていきます。

 普段はプロデューサー的な立場に立つことが多い三人ですが、「このバンドだとプロデューサー比率がゼロになるわけではないんだけど、演奏家比率がすごい高い。」と大友は言います。「各自が自立してる。それは信頼でもあるし、それを聴き合うってことでも」あると不破。

 「それができるのは人と演奏する上ですごく光栄で幸せなこと」だと言っていますが、このアルバムのジャケットに見られる子ども時代のような邪心のない演奏には、聴いているこちらも幸せな気分になります。同世代の安楽です。

 アマゾンではイージー・リスニング・ショップで売られています。この人たちの場合、何かそれも面白がりそうでいいかなと思います。全身が音楽の塊のようになっている三人の火の玉演奏は聴けば聴くだけこちらの気が楽になってきますからね。

参照:OTOTOY インタビュー 飯田仁一郎 20170615 

from 1959 / Shoro Club (2017 地底)