後にも先にもニュー・オーダーのメンバーがジャケットを飾ったのはこのアルバムだけです。しかも表紙はドラムのスティーヴン・モリス。フロントマンではありませんが、各メンバーのポラロイド写真を4枚並べてみると最もジャケットに相応しい写真であることは間違いありません。

 ニュー・オーダーは前作のヒットで進む路線が決まり、迷いなく堂々と大きく手を振って前進していきました。この作品では狙うはアメリカとばかりに、米国発売のレーベルをラフ・トレードからクインシー・ジョーンズのクウェストに変更しています。

 ニュー・オーダーの3枚目のアルバム「ロウ・ライフ」は前作からちょうど2年後に発表されました。その間は、アフリカ・バンバータでお馴染みのアーサー・ラッセルがプロデュースした「コンフュージョン」などコンスタントに12インチを発表していました。

 その流れからいくと、本作収録の「パーフェクト・キッス」と「サブ・カルチャー」は12インチ・シングルで発売して、アルバム未収録が順当ですけれども、ここはアメリカに妥協して、しっかりとアルバムに収録されました。おまけに7インチ・シングルまで。

 キーボードのジリアン・ギルバートは「ニュー・オーダーらしさ」を、「普通の反対、ちょっと変、だけどちゃんと聴ける、単に独特」と表現しています。正面から変なわけではありませんが、どこか他と違う。そんなニュー・オーダー・サウンドはこのアルバムで完成しました。

 哀愁のキャッチーなメロディーとエレクトロなダンス・ビートの融合とだけ言えばよくありそうですが、ニュー・オーダーはどこかがちょっとだけ違うんです。その姿がこのアルバムにはよく表れています。ボーカルも演奏もちょっとだけベクトルがそれていく。

 このアルバム発表後、ニュー・オーダーは初来日を果たしています。私も東京厚生年金会館に見に行きました。PAの調子が悪かったのか、バーナード・サムナーのボーカルがほとんど聴こえず、途中でマイクスタンドを蹴り倒したり、イライラしている様子でした。

 終了後、明かりがついて客が帰り始めてから、フラストレーションを解消するかのようにバンドが再度登場して演奏を始めたため、騒然となったことを鮮明に覚えています。加えて、演奏の下手さに驚いたという感想が今もネット上には散見されます。何かと話題のライブです。

 上手だとは思いませんでしたけれども、そんなの全然関係ありません。パンク後なのに何を言うかと思います。ただ、バンド・メンバーは直前の香港で全員がインフルエンザに罹って、入院が必要なヘロヘロな状態だったようで、精彩を欠いていたのは事実でしょう。

 私はこのアルバムをその会場で買ったので、大変懐かしく思い出します。レコードの帯が半透明の紙を使っていて、途轍もなくお洒落でした。さすがはピーター・サヴィルのデザインです。そのジャケットとは裏腹にカラフルになったサウンドに聴き惚れたものです。

 本作には意表をついてビートのない「エレジア」が収録されていて、それもまた新境地でした。オリジナルは17分を越える大作で、雑誌の付録用に録音されたそうです。この頃のニュー・オーダーは何をやってもぴたりと収まりました。

Low-life / New Order (1985 Factory)