先日、お世話になった方のお通夜にいってきました。そんな時には「レクイエム」が似合います。世に名高い三大レクイエムは、モーツァルト、フォーレそしてヴェルディがそれぞれ作曲したレクイエムです。本作品はヴェルディ版です。

 ヴェルディは、19世紀前半の分裂状態にあったイタリアで祖国統一に命を捧げた詩人アレッサンドロ・マンゾーニの死に相対して、このレクイエムを作曲しています。ロッシーニが亡くなった時にも曲を書いていて、その一部がこちらに流用されています。

 初演は自らが指揮してマンゾーニの一周忌にミラノのサン・マルコ寺院にて行われています。まことに由緒正しい、一片の曇りもないレクイエムらしいレクイエムです。それなのに、ヴェルディ版レクイエムはしばしば批判されます。

 批判の内容は、派手過ぎるというものです。ヴェルディはオペラの人ですから、とにかく派手です。それはレクイエムとて例外ではなく、とてもドラマチックにぐいぐい迫ってきます。歌手の方も絶叫する場面があります。

 別にふざけているわけではないのですから、少々派手でも良いじゃないかと思います。葬式は陽気に派手に執り行う世界もあります。日本でも年寄りの大往生の場合には、お清めと称して大騒ぎになります。故人が好きだったロックで送ろうという人もいます。

 派手な方が演奏者も演奏しがいがあるというものです。ドイツ・グラモフォンの名盤に選ばれた本作品はハンガリーの指揮者フリチャイ・フェレンツです。オケはベルリンRIAS交響楽団、ベルリン聖ヘドヴィヒ大聖堂聖歌隊にRIAS室内合唱団。

 ソロ歌手は、ソプラノにマリア・シュターダー、メゾ・ソプラノにマリアンナ・ラデフ、テノールにヘルムート・クレプス、バスにキム・ボルイです。アルバムの解説文には、「スター歌手不在」とあっさり書かれていて何だか可哀想です。

 しかし、それが良かったというのが解説の趣旨です。大げさに芝居がかったところもなければ、過剰なビブラートもない。フリチャイは、この楽曲をとても誠実に解釈していて、それを素直に表現するには彼女たちの貢献が大であると。

 楽曲自体が派手ですから、さらに装飾を施すとあっという間に過剰になってしまうのは分かります。ここでの歌唱は伸びやかな歌声も見事に素直に美しいです。ゴージャスにはシンプルで対応するのが最上の手だということでしょう。

 フリチャイの死後、フィッシャー=ディースカウがフリチャイ協会を設立して、カール・ベームが名誉会長を務めたのだそうです。日本ではあまり有名ではないと思いますが、ヨーロッパでの人気も評価も極めて高いようです。

 録音は1953年、ベルリンのダーラムにある教会で行われました。まだ戦争の記憶が生々しいベルリン、レクイエムに相応しい場所です。もちろんモノラルで録音されていますが、その音響はとても美しいです。

Verdi : Messa da Requiem / Fricsay Ferenc (1954 Deutsche Grammophon)