ニール・ヤングと一緒に活動していたクレイジー・ホースのギタリスト、ダニー・ウィッテンは1972年11月に亡くなりました。さらに、ジャン&ディーンのジャン・ベリーの兄弟でCSN&Yのローディーを務めた友ブルース・ベリーも1973年6月に亡くなってしまいます。

 二人とも死因はドラッグです。相次ぐ友人の死に打ちひしがれたニール・ヤングは二人に捧げるお通夜としてこのアルバムを制作しました。全12曲中、1曲だけ1970年に収録したダニーを含むクレイジー・ホースとの楽曲が収録されているところがお通夜らしい。

 それにうち8曲はメンバーともども酔いどれたセッションから生まれていますから、とことんお通夜です。亡き人を弔うにはお酒は欠かせません。ここでのお酒はテキーラなんだそうです。これは効きます。酔っぱらいです。

 このセッションはハリウッドのリハーサル会場に即席でしつらえたスタジオで行われました。1973年8月のことです。ヤングと一緒に演奏したバンドはサンタ・モニカ・フライヤーズと名付けられました。ヤングを入れて全部で5人、全員がテキーラを飲んで参戦した模様です。

 バンド・メンバーは、クレイジー・ホースのリズム・セクション二人、ラルフ・モリーナとビリー・タルボットにストレイ・ゲイターズのニルス・ロフグレンとベン・キースの4人です。故人ともゆかりの深い面々です。心は一つになったことでしょう。

 アルバムはブルース・ベリーの名前を挙げてその想い出に触れた「今宵その夜」から始まります。ここからしていつもと違うただならぬ雰囲気が流れ出してきます。皆がしこたまテキーラを飲んでいると聞いて初めて納得がいく演奏です。

 トーンはこのタイトル曲でセットされて、全体があまりに直截に喪失に直面した心情を表現しています。よれよれの演奏ですし、「メロウ・マイ・マインド」などでのヤングの声は壊れてしまっています。そこに何とも真実が溢れだしてきます。

 ♪俺のアドバイスを聞いてくれ、疲れた目を開けるんだ♪と切々と訴える「タイアード・アイズ」など、もはや歌の範疇にはないようです。この編成でのステージは暗闇を吹き飛ばそうと懸命な姿がライブというよりもパフォーミング・アートのようだったと言われます。

 そんな中で唯一のクレイジー・ホースの曲「カモン・ベイビー・レッツ・ゴー・ダウンタウン」の溌剌とした演奏が涙を誘います。ダニーのリード・ボーカルが生き生きとしています。ちょうど真ん中辺にもってくるところも憎い。

 ヤングはこのレコーディング・スタイルを「シネマ・ベリテ」ならぬ「オーディオ・ベリテ」と呼んでいます。演出を加えずに、欠点も含めてありのままを記録していく。とてもニール・ヤングらしいです。物議を醸す問題だらけのアルバムをこの後数多く発表するヤングらしい。

 この作品をヤングの最高傑作に推す人も多いのに、レコード会社はリリースを渋り、ようやく陽の目を見たのは2年後、それほど重いアルバムです。ニール・ヤングのファンになるということは彼の赤裸々な姿に共感するということです。これを避けて通ることはできません。

参照:"Neil Young : Heart of Gold" Harvey Kubernik

Tonight's the Night / Neil Young (1975 Reprise)