若い頃の一時期、青林堂を中心とする青年漫画に入れ込んでいたことがありました。丸尾末広、花輪和一、ひさうちみちお、蛭子能収、根本敬などの漫画を熱心に読んだものです。その中の一人が泉昌之です。

 一人としましたが、泉昌之は藤子不二雄状態で、泉晴紀と久住昌之による漫画家コンビです。「かっこいいスキヤキ」など、食べ物に過剰にこだわる漫画が強く印象に残っていますから、後に「孤独のグルメ」が登場した時には激しく納得したものです。

 泉昌之で原作を担当していたのが久住昌之で、時代が下って「孤独のグルメ」の原作を担当して一般的な人気を博することになりました。久住昌之やら蛭子能収やら、当時の漫画家さんが活躍しているのを見るのは嬉しいものです。

 久住昌之は漫画家と並行してバンド活動も続けていたそうで、「時を重ねて幾星霜。その数、千有余に及ぶ演奏活動で」、「不滅の音楽魂」を培いました。学生時代からといいますから、40年以上。なかなかできるこっちゃないです。

 本作は2011年7月のソロ・アルバム「ミュージコミクス」に続くセカンド・アルバムです。今作は久住昌之&オーケストラQとクレジットされており、総勢20名に及ぶ多数のミュージシャンとの共演となっています。

 帯の紹介では、「不滅の音楽魂と古今東西の音楽エッセンスが霊長類マンガ家ならではの詩的世界とともに濃ゆぅ~く詰め込まれた密林のようなポップ爆弾」とされています。いかにも同世代の言葉感覚なので嬉しくなってきます。

 その紹介にある通り、ファンクやジャズ、歌謡曲にブルース、ロックにリンガラなど、古今東西の音楽エッセンスが詰まっています。多彩で分厚いホーン陣が大活躍するビッグバンド的な歌謡ショーを想像してください。

 オーケストラQは久住が50歳代に入ってから組んだのだそうで、そこからでも数年のライブ活動を経ての満を持してのアルバム発表です。ライブで何度も演奏した曲が多いのではないでしょうか。随分とこなれた演奏になっています。

 久住のボーカルは癖がなくて真っ直ぐですし、演奏もこれまた直球ばかりです。とにかく楽しそうです。親父バンドというのは基本的に楽しいものなのでしょうが、ここまで真っ直ぐに音楽をする喜びを振りまく演奏は滅多にあるものではありません。

 タイトル曲の「骨」だけが鈴木慶一の作曲ですけれども、それ以外は作詞も作曲もすべて久住によります。「シブイ店見つけた」とか♪ありおりはべりいまそかり♪とか、歌詞の感覚がまるで同世代ですし、ごった煮感覚の古き良き時代の歌謡曲的でもあり、こちらも同世代。

 良い意味でアマチュアリズムの権化のようです。ゴルフの大会だとアマがプロを負かすことも良くあります。この楽曲と演奏のクオリティの高さをもってすれば凡百の職業音楽家は舌を巻いて逃げ出すことでしょう。

Hone / Masayuki Qusumi & Orchestra Q (2017 地底レコード)