快挙です。紙ジャケ界もここまで来ました。透明のビニール・ケースにジャケットなしでピクチャー・ディスクが入れただけというディスクをCDで再現しています。CDでは不可能な両面ピクチャー・ディスクをうまく紙の台紙を利用することでクリアしました。天晴です。

 そもそもオリジナルLPは世界初のピクチャー・レコードだと言われています。この作品はカーヴド・エアのデビュー作であることを考えると、これは破格の待遇だと言えます。大手ワーナー・ブラザーズが契約した初めての英国ロック・アーティストならではです。

 ワーナーとの契約金は10万ポンドとも言われていますから、ワーナーの英国戦略の先兵にして切り札としての役割が期待されていたのでしょう。強力なプロモーションも後押しして、見事に全英チャートでは8位まで上がりました。

 カーヴド・エアはその出自からしてユニークです。もとはクラシックを学んでいたキーボード兼ギターのフランシス・モンクマンとベースのロバート・マーティン、ドラムのフローリアン・ピルキントン・ミクサの三人による実験的な音楽ユニットです。

 そこに王立音楽学院で最優秀賞をとったというバイオリンのダリル・ウェイが加わります。彼らがあるミュージカルのピットで演奏した際、その作品を有名な「ヘアー」と同じ監督が手掛けていたことから、「ヘアー」に出演していたソーニャ・クリスティーナが加わることになりました。

 バイオリン、ミュージカル、王立音楽学院、クラシックと、普通のロック・バンドにはないキーワードが満載です。いかに彼らがワーナー・ブラザーズを熱狂させたのか分かるというものです。テクニックは抜群ですし、蠢動していたプログレの季節にはぴったりです。

 バンド名はミニマル・ミュージックの大家テリー・ライリーの「レインボー・イン・カーヴド・エアー」から採っています。なんともはや徹底したプログレぶりです。五大プログレ・バンドが活躍をし始めた時期ですから、世間はこれを前向きにとらえたものです。

 「エア・コンディショニング」はカーヴド・エアのデビュー作です。当時の日本盤の帯には「イギリスの大型ロック・グループ カーヴド・エアの初アルバム」とシンプルに書いてあるのみです。消化不良だったことがほのめかされているようにも思います。

 デビュー作にありがちな満艦飾のサウンドです。トラッドからロック、そしてクラシックと躊躇せずにさまざまなサウンドを試してみましたというアルバムです。そもそもヴァイオリンがロックに加わることが稀なだけに、これだけで実験的になってしまいます。

 「ヴィヴァルディ」のような超絶技巧の正統派バイオリンもあれば、モンクマンのギターを中心としたロック調の曲に不思議に合うバイオリンもあります。ソーニャのミュージカルを経たボーカルとバイオリンもまたベスト・マッチです。

 時代的に録音には制約がありますし、若気の至り的な側面もあちらこちらに見られます。そこがいいおかずになって、プログレ時代の到来を告げる実験精神の発露が存分に楽しめます。名刺代わりの一発は心に引っかかる作品になりました。

Air Conditioning / Curved Air (1970 Warner Brothers)