大森靖子のことを一言で紹介するのは難しそうです。公式サイトのプロフィールから引用すると、「新少女世代言葉の魔術師。超歌手。」ということになります。「斬新と不思議と諦念とワガママと創造と焦燥に生きるかわいい女の子とおっさんLOVEクソだけど頑張るクソです。」

 余計に訳がわからなくなってきましたが、こういう言葉が連打されると私の世代だと不思議ちゃんと括ってしまいそうです。「諦念」とくると反射的に戸川純を思い浮かべてしまう世代ですから。しかし、カテゴリー分けはおやじの定番だと嫌われそうですね。

 彼女はもともと「弾き語りを基本スタイルに活動する」人でしたけれども、メジャー第三作目となる本作などはまるで弾き語りモードではありません。トラックはフルに張り付いており、一般的なアイドルの作品と同じ仕様です。

 大きな違いはもちろん作詞作曲の大半が大森本人によるところです。その大森の楽曲を豪華なゲスト陣がサポートしています。いきなり冒頭の「ドグマ・マグマ」は現代版ジャズ・ロックを標榜する三人組フォックス・キャプチャー・プランです。

 ジャズ畑からの参加でまずは頬っぺたを張ってきます。歌詞の世界もいきなりドグラ・マグラです。アルバム・タイトルはここから無理なく出てきますし、いくらでも深読みできるように考え抜かれています。

 さらに神聖かまってちゃんのの子、ヒャダイン、カーネーションの直枝政広、sugarbeans佐藤友亮、女子高生でデビューしたラッパーDAOKO、凛として時雨のピエール中野、現代音楽とポップを融合するサクライケンタ、ニューウェイブ・アイドルゆるめるモのあの。

 書いていて自分でも訳が分かりませんが、こんなような人々が寄ってたかって大森靖子の楽曲でコラボをしているわけです。選んだ理由は、「トキメキがあるか否かの一点のみです」とのことです。アーティストです。

 大森靖子は「分かり合えない人と言語レベルを等しくするより、自分の言葉でしゃべった方が伝わること多いし、そういったやり方で私はキチガイアを作りました」と語っています。自由自在な言葉は覚悟の上なのでした。

 「Idol Song」や「JI・MO・TOの顔のかわいいトモダチ」のような赤裸々な歌詞から、 °Cuteへの提供曲「夢幻クライマックス」のような王道の歌詞と振れ幅も広いし、耳にイガイガする言葉の連続でドキドキします。さすがは「新少女世代言葉の魔術師」です。

 一曲、「ポジティヴ・ストレス」は小室哲哉が提供しています。小学校時代に小室の洗礼を受けている世代だけに、素直に嬉しかったそうです。何とも曰く言い難い彼女の音楽世界は実は王道J-popを下敷きにしているのでした。

 何とも始末に負えない大森靖子です。一方で椎名林檎のような世界があり、片方にアイドルの世界がある。それらはそれなりに分かりやすいですが、大森靖子にはどのようにも片付けられないものがあります。大変結構なことだと思います。

参照:ミーティア・インタビュー

Kitixxxgaia / Oomori Seiko (2017 Avex)