ジョン・コルトレーンには「インディア」という有名な曲があります。自由をめざすジャズ・ミュージシャンとインドはその精神性において相性がよさそうです。マイルス・デイヴィスもインドを訪問する機会はなかったものの、インド音楽に入れ込んでいたそうです。

 ジャズは世界中で演奏されています。必ずしもメジャーな音楽であるわけではありませんが、どんな国にいっても一定の演奏者とファンがいるものです。インドにもジャズを演奏する人々はいますし、来印する外タレの多くはジャズ・ミュージシャンです。

 インドのジャズ界で大御所として知られているのがルイス・バンクスです。過去30年にわたり、インドにジャズを広めてきた人で、ディジー・ガレスビーなどの大物ジャズメンとも共演した経験もある名ピアニストです。

 この作品はマイルス・デイヴィスの楽曲を、マイルス学校の卒業生たちとインドのミュージシャンが共に演奏したアルバムです。マイルスに造詣が深い米国人ボブ・ベルデンとインドのレコード会社社長のユスフ・ガンディーの共同発案になるものです。

 共同発案者のベルデンはプロデューサー、ガンディーはエクゼキュティヴ・プロデューサー、加えてルイス・バンクスがアレンジャーとしてベルデンとともにクレジットされています。音楽的にはベルデンとバンクスが中心でした。

 アルバムはインド人ミュージシャンによるベーシックなトラックを先に録音し、それをアメリカに持ち帰って、マイルス同窓生たちがそこに音を重ねていく形で制作されました。アメリカ側は事前に音を聴かされておらず、その場で対応したのだそうです。

 参加ミュージシャンはさすがに豪華です。マイルス学校の方は18人、チック・コリア、ロン・カーター、ジミー・コッブ、マーカス・ミラー、ジョン・マクラフリン、マイルスそっくりさんウォレス・ローニーなど綺羅星のごときアーティストが並びます。

 一方、インド側も負けてはいません。ボーカルにはシャンカル・エヘサーン・ロイのシャンカル・マハデヴァン、フルートの名手ラケーシュ・チョーラシア、ここではマンドリンを披露する超絶ギターのUスリニヴァース。

 インド独特の楽器を扱う奏者としては、パーカッションのシヴァマニやトーフィク・クレーシー、サーランギには若き旗手ディルシャド・カーン、さらにはシタール、サロード、ヴァイオリンにムリダンガンを扱う奏者も入れて、インド側総勢はルイスも入れて16名です。超豪華。

 楽曲は「カインド・オブ・ブルー」や「ビッチェズ・ブリュー」など超有名作品から選ばれており、まさにインド音楽とジャズが火花を散らしています。たとえば「ソー・ホワット」はあの有名なフレーズの前にインドのボーカル・パフォーマンスをぶつけて焔が上がっています。

 この作品は2008年のグラミー賞でベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムにノミネートされました。インドからの挑戦を受けたマイルス同窓生たちは胸の熾火を再び燃え上がらせ、熱いアルバムが仕上がったのでした。

Miles From India / Bob Belden (2008 Saregama)