ワイヤーの活動休止後、ブルース・ギルバートとグラハム・ルイスの二人はドーム名義で、自身のレコード・レーベルも設立して活動を行います。しかし、当時、多産だった彼らは他のレーベルからも作品を発表しました。

 この作品は彼らが当時、新興レーベルだった4ADに残した作品をコンパイルしたCDです。3作品がまとまっています。まずはカポル名義で発表した12インチ・シングル、中心はデュオ名義のアルバム「3R4」、そしてこれまたデュオ名義の12インチです。

 なぜ自身のレーベルではなく、4ADから発表したのか。ブルースは「あの当時、私達には、自身の手でレコーディングし、リリースするだけの金がなくて、4ADのシステムを使っただけなのだ」と語っています。

 グラハムは「ただひとつのプロジェクトを私たちに許してくれたのは4ADのみで、彼らはレコーディングとプロモーションに関して敏腕ぶりを発揮してくれた」と喜んでいます。ポスト・パンク期のシーンの活況がほの見えるエピソードです。

 私は1980年の発表当時から、「3R4」を聴いていたので、そちらに馴染みがあります。このジャケットは「3R4」のもので、タイトル部分が「8タイムス」に書き換えられているだけです。ドームの一連の作品と地続きであることが良く分かるシンプルなモノクロ・ジャケットです。

 「3R4」は、LPの各面にまずは「バージ・コーム」という1分程度の曲を置き、それに続けてそれぞれ、ルイスが主導権をとった「3.4...」、ギルバート作曲の「R」を配する両面対称の構造になっています。CDの表記は二回目の「バージ・コーム」が抜けていますが。

 演奏のクレジットでは、ギルバートはパーカッションを担当しているのみとなっている点がドームと異なります。シンセやギター、それにテープ、ついでにプロデュースもルイスが担当しています。各面がソロのようなものなのに、このクレジットの差は謎です。

 そして注目すべきはラッセル・ミルズの参加です。のちにイーノやジャパン、さらにはナイン・インチ・ネイルなどとコラボすることになるミルズのほとんど初仕事と言ってもいいのではないでしょうか。歴史は振り返るものです。

 ルイスの「3.4...」はドローンを中心に据えたアンビエントな出だしで始まります。その後はリズムの展開もありますが、アンビエントは変わりません。インダストリアルなアンビエントとも言えるモノクロームな音風景が広がります。

 一方、ギルバートの「R」は対照的にメタルを叩いているようなパーカッションによるリズムから始まり、ドローンに持ち込みます。実際に机や金属を叩いてもいるようです。どちらも、まるで工場の機械のような非音楽的な音楽で、躍動感がないところが素晴らしいです。

 それに比べると12インチの方は歌ものも入っており、「3R4」に比べると、ポピュラー音楽のフォーマットに近い。同じアーティストですし、その殺伐とした音世界はもちろん同じなのですが、やはり一緒にしないでほしかった。「3R4」は完璧な作品ですから。

参照:ロック・マガジン41号(1982年)

8 Times / B.C.Gilbert, G.Lewis (1988 4AD)