おバカ映画の傑作「オースティン・パワーズ」はその音楽センスも大いに評価されました。サントラも大いにヒットしましたから、シリーズ第二作となる本作品もそのサントラへの期待もとても高いものでした。実際、期待に違わぬ力作です。

 そもそもレーベルがマドンナが創設したメイヴェリック・レコードに移っています。マドンナに引っ張られたと言ってもよいのでしょう。彼女はしっかり本作の中に存在を刻印しているばかりか、グラミー賞まで獲得してしまいました。

 映画自体は「オースティン・パワーズ」シリーズですから、相変わらずアメリカのお笑いセンスが全開なので、面白いは面白いのですけれども、抱腹絶倒、大爆笑の嵐とまでは行ききれないもやもやが残ります。

 しかし、サウンドトラックはそういうややこしさがないのが嬉しいです。やはり音楽に国境はない、とまでは言えないにしても、確実に壁は低いです。それにこのサントラはよく考えられていて、全体にまとまりのある立派な作品です。

 豪華アーティストが参加しているのですけれども、決してヒット曲を並べたお手軽なものではありません。ライナーノーツによれば12曲中8曲は新曲だそうですし、コンセプトに沿って選び抜かれた曲で埋められています。

 映画の設定はタイムマシンで1969年に戻ることになっています。そのため、アルバム収録の曲も60年代を意識しています。冒頭のマドンナの「ビューティフル・ストレンジャー」は新曲ですけれども、60年代を十分に意識したサイケデリックを感じさせる曲になっています。

 続くのはザ・フーの定番「マイ・ジェネレーション」ですけれども、何とBBCで放送された未発表ライブだというサービスぶりです。こうした心配りが憎いです。実に細やか。続いてREM、レニー・クラヴィッツという大物が60年代の曲をカバーしています。

 さらにグリーン・デイ、ストーン・テンプル・パイロッツのスコット・ウェイランド、元スパイス・ガールズのメラニーG、フレイミング・リップスと当時の人気バンドが登場します。新曲もあれば、80年代の曲のカバーもあるものの、何となく60年代感覚を緩く共有しています。

 存在そのものが60年代を感じさせるバート・バカラックのエルヴィス・コステロとのデュオに続いて、シリーズ全体のテーマ曲でもあるクインシー・ジョーンズの「ソウル・ボッサ・ノヴァ」が最後を締めます。考え抜かれた構成です。

 実にサントラらしいのは「クリスタルの恋人達」です。グローヴァー・ワシントン・ジュニアの原曲をウィル・スミスがカバーしたバージョンを元に、マイク・マイヤース扮するドクター・イーヴルがラップします。聴けば聴くほどこの名曲の能力の高さが染みてきます。

 サントラへの参加希望が多数寄せられたというだけあって、贅沢なつくりです。それぞれが緩やかにコンセプトを共有して、同じ方向を向いているので、全体の統一感が素晴らしいです。これも一つのサントラの理想形でしょう。

Austin Powers : The Spy Who Shagged Me / Various Artists (Soundtrack) (1999 Maverick)