ジャケット写真が強烈です。私の中ではトッド・ブラウニングの「フリークス」とシンクロしていたのですけれども、よく見ると特にそういうことでもなさそうです。しかし、妙な明るさが残るサーカス写真は映画同様に多くのことを物語っています。

 衝撃のデビュー・アルバムからわずかに9か月で発表された本作はまたまた傑作の名をほしいままにしています。セールス的にも、トップ10入りしたあげく、1年以上もチャートに留まる大ヒットですし、シングル・カットされた「まぼろしの世界」もあわやトップ10でした。

 内容も前作に比べるとよりタイトにまとまっており、アルバムとしての完成度は極めて高いです。プロデューサーのポール・ロスチャイルドやジム・モリソン本人が本作をフェイヴァリットにあげているのも頷ける充実した内容です。

 前作の時から、ロスチャイルドは後世に残すことを考えて、当時流行していたエフェクター類の使用を禁止していたそうです。確かに時代と場所を考えるとサイケデリック全盛ですから、もっとそれっぽい音になっていてもおかしくありません。しかし、そうはなっていない。

 ドアーズとサイケデリックは結び付けて語られがちですけれども、少なくともサウンド面ではさほどサイケデリック臭は感じられません。ジム・モリソンのボーカルはより都会的なので、フラワーな世界観とも違っています。

 そのサウンドは前作と異なり、ベースが入ることになりました。前作ではレイ・マンザレクがキーボード・ベースを使っていましたが、今度はダグラス・ルバーンをゲストに招いてベースを弾かせています。やはりベース・ギターがないと落ち着きませんから良かったです。

 本作品の邦題は「まぼろしの世界」です。てっきり原題の「ストレンジ・デイズ」からの発想かと思ったら、実は「ピープル・アー・ストレンジ」という曲にこの邦題が当てられています。この曲はシングル・カットされているので、二重のねじれが生じている模様です。

 この表題曲はポップ的ではないのですが、シンプルな歌詞が強烈です。♪君がよそ者だと、人はみんなよそよそしい♪、♪君が孤独だと、人々の顔が醜く見える♪。ジム・モリソンのこじらせぶりがよく分かります。終生、自分と他人との意識のずれに苦悩した人ならではです。

 アルバム中では「放牧地帯」での冒険ぶりが目立ちます。この曲では、バンドが作り出すノイズを背景にモリソンによる詩の激しい朗読が唸ります。ほんの短い曲ですけれども、ドアーズの真骨頂が表れています。

 マンザレクを魅了してドアーズ結成のきっかけとなったモリソンの「月光のドライヴ」はここに完成形で収録されました。デビュー作では何かと落ち着かない側面もあったドアーズもここでは余裕すら生まれたということでしょう。

 そして、前作の「ジ・エンド」に相当する「音楽が終わったら」が全体を締めます。こちらも11分強の長さですけれども、歌詞の力と確かな構成力でだれずに最後まで突き進みます。ドアーズの進撃はここでも快調でした。

Strange Days / The Doors (1967 Elektra)