ライナーノーツを書いているシンディ・スターンは、NME誌にセックス・ピストルズの記事が出るや否や、恐らくはポーリン・マレイと一緒に、彼らに会うためにロンドンに出かけています。そして実際に、ピストルズの仕掛け人マルコム・マクラレンに会っています。

 マルコムは翌週にはシンディに電話をかけ、イングランド北部でのギグの場所を相談しています。そのギグを見て、ペネトレイションが誕生するわけですから、まだバンドも始めていない熱意だけある若者でもマルコムと面会することができたんです。

 これが英国のパンクです。その時の空気はこういうことだったんです。ともかく、こうしてピストルズ後の第一世代として、ペネトレイションは、ロバート・ブレミアのベース、ゲーリー・スモールマンのドラム、ゲーリー・チャプリンのギター、ポーリン・マレイのボーカルで出発します。

 地元ニューカッスルで人気を得た彼らは、今や伝説となっているパンクのメッカ、ロンドンのザ・ロキシーでもジェネレーションXとともにギグを行っています。事態は急速に展開し、興味を持ったヴァージン・レコードからデモを制作する機会を提供されます。

 そのデモが収録された「オフィシャル・ブートレグ」がこの「レース・アゲンスト・タイム」です。ペネトレイションの最後のアルバムとして、デモとライブを収録した作品を残すことで、そのパンク伝説に区切りをつけようとする態度が天晴です。

 デモは1977年から78年1月にかけて録音されています。デモには彼らのシングルにして代表曲となっている「ドント・ディクテイト」や「ファイヤリング・スクワッド」、それにそのB面曲の他、未発表曲が3曲、デビュー・アルバム収録曲が2曲の計9曲です。

 パティ・スミスのカバーを除く全曲をチャプリンとポーリンが共作しています。いかにチャプリンが音楽的な主導権を握っていたかが分かるというものです。チャプリンはデビュー作発表前に脱退してしまいますから、このデモは彼の演奏が聴ける貴重なものでもあります。

 曲自体の出来栄えはなかなかのものですし、ポーリンのボーカルはほぼ完成していますけれども、サウンド自体はかなりDIY的です。ペネトレイションのデビュー作に比べると、こちらの方がいかにもパンクです。

 ヴァージンはやはり音を足さないとだめだと判断したようで、チャプリン脱退後は二人のギタリストを採用することになります。当時、パンク勢との距離が微妙だったオンリー・ワンズなどが好きだったポーリンは違和感なく華麗なプレイのギタリストを採用しました。

 デビュー作で聴かれる完成度の高いサウンドの背景にはそういう事情があったのだということを今更ながら実感させてくれるブートレグです。パンクとは何なのか、色々なことを考えさせる作品です。

 ところでライヴはやっぱり二人のギタリストがカッコいいです。ペネトレイションは実力派ですから、ライヴもきちんとこなす立派なバンドでした。このライブは解散発表時の音源も含んでおり、その意味でも貴重です。これがあったから2001年の再結成もあったのでしょう。

Race Against Time / Penetration (1980 Virgin)