ジョー・トラヴァースをヴォールトマイスターに迎えて制作された作品群の第三弾です。今回はクリスマス・シーズンに合わせて、クリスマス・プリンっぽい形で発表されました。かの地のクリスマス・プリン、何が飛び出すか分からないドキドキのプリンです。

 「概念的連続性」を標榜して、ほとんど人生そのものを録音してきたザッパ先生らしく、今回はかなりの部分で語りが中心になっています。その内容はよく理解できませんけれども、先生の心意気は十分伝わってまいります。

 今回の音源は1962年から1964年頃に録音されていたものです。いきなり元奥さんによるイントロで始まり、ザッパ先生がモルモン教のクリスマス・ダンス・パーティーをレポートするという、この先どうなるんだろうかと思わせる出だしです。

 音楽が始まるのは3曲目の「ミスター・クリーン」からです。1963年にシングル発表された曲の別ミックスだそうですが、何とミスター・クリーンと記載されているボーカルは誰なのか、ライナーを書いている未亡人のゲイル・ザッパにも分からないそうです。

 続く「ホワイ・ドンチャ・ドゥ・ミー・ライト」は「アブサルートリー・フリー」に入っていた曲の別バージョンです。ボーカルはフロイドとされていますが、これもまた誰のことだかわかりません。シンプルなアレンジでなかなかの聴き物です。

 5曲目はレス・パップとポール・ウッズとフランクの「クリーム・タイプ」のバンド演奏です。セインツ・アンド・シナーズというバーでのライブで、お客であろうと思われる人「キャラバン」をやりたいとギターを持ってステージに上がるという寸劇もどきの展開で、唐突に終わります。

 続く「パース」あるいは「アル・スーラットがハンドバックを検査する」という11分にも及ぶ語りです。ジョーは嫌がったそうですが、ゲイルの強い主張でアルバムに含まれることになりました。よほどツボにはまったんでしょう。なかなかその感覚を共有するのは難しいですが。

 ほんのわずかですけれども、ザッパ先生の現代音楽的な作品も楽しめます。ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」からの引用を含む「ザ・ムーン・ウィル・ネバー・ビー・ザ・セイム」と「マウジーズ・ファースト・クリスマス」の2曲です。合わせても2分強。うーん、短すぎる。

 「GTRトリオ」はザッパ先生のスタジオZでの最後の録音だそうです。ポルノ・テープ製作の疑いで警官に踏み込まれる前夜に、ドラムのレス・パップ、ベースのボビー・サルダナ、先生のアコギによるトリオで録音されたものです。このギターは聴き物です。

 この後、レイ・コリンズと先生が10代の若者の希望について語り、一つおいて最後はラジオでのオンエア用に録音された「アンクル・フランキー・ショー」で幕を閉じます。キャプテン・ビーフハートと進めていたティーネイジ・オペラについて先生が語っています。

 このように半分以上は語りで占められていて、熱心なファン以外にはお勧めできない内容なのですが、ところどころ聴ける演奏はさすがはザッパ先生というものですから、熱心を自認するファンにはなくてはならない作品であると言えるでしょう。

Joe's XMSage / Frank Zappa (2005 Vaulternative)