どうやら飛び込んでいるのは男性らしいです。それに、青い海ではないところにヨーロッパ的なものを感じます。ジャケ買いした人も多い素晴らしいジャケットに包まれているのは、ハンス・ヨアキム・ローデリウスのソロ・アルバム第一弾です。

 アルバムの発表は1978年のことで、ローデリウスは、当時、まだクラスターとしての活動を続けていましたし、ブライアン・イーノとのコラボレーションも行っていました。アルバムの録音は1976年のことですから、さらに時代は遡ります。

 むしろ、ハルモニアの3人がそれぞれソロ活動に乗り出したと言った方が事情を明らかにしているのかもしれません。その意味では、ミヒャエル・ローターのソロに続く、ハルモニア勢からのソロ作品と言えます。

 後のローデリウスのソロ作品とは異なり、この作品ではプロデューサーも務めたコニー・プランクや、クラスター/ハルモニア仲間のメビウスが参加しています。もう一人、主にベースを弾いているジョソ・クリストなる人物も参加しています。

 特にプランクは全6曲中4曲でパーカッションやギター、それにボーカルで参加しています。ボーカルといっても歌を歌っているわけではなく、声を楽器のように使っていると言った方が正しいです。その意味ではローデリウスの声も聞こえてきます。

 ハルモニアやクラスターで活動してきたローデリウスがこの時期にソロ作品を発表したということから、多くの人はエレクトロニクス・ミュージックを想像していたに違いありません。しかし、ここではローデリウスのパーカッションが目立ちます。

 プランクのギターやクリストのベースも含めて、生楽器が大きな役割を占めるアルバムになっているんです。特に冒頭は、カンやアモン・デュールなどの暗黒派クラウト・ロックかと思われる曲調です。ローデリウスにしては珍しい。

 しかし、タンジェリン・ドリームもKのクラスターも当初はパーカッションによる暗黒サウンドでしたから、キャリアの長いローデリウスもソロとしての旅立ちにあたって、こうしたサウンドを用意したのかもしれません。初心に戻るとこうなるのがクラウト・ロックでしょう。

 この曲が終わると、嵐が吹いてきます。そしてアルバム・タイトルになった「荒野」が始まります。自然音もサンプリングされていますし、エレクトロニクスも用いられていて、サウンド・コラージュ的な風景が広がって行きます。

 一方、本当のソロとなる3曲目などは一瞬ビートルズかと思うようなトラックになっています。もう一曲コニー不参加のトラックが4曲目で、そちらもローデリウスの他のソロ作品と素直に地続きとなります。

 ということは、本作品をコニー・プランクとのコラボ作品と位置付けた方がしっくりきます。もともとローデリウスは共演相手の個性を引き立てることに長けている人です。二人の個性が見事に溶け合ったアルバムだと言えるでしょう。

Durch Die Wüste / Hans-Joachim Roedelius (1978 Sky)