1980年代も終わりに近づいた頃、若者の洋楽離れが深刻になっていました。まず洋楽を聴いて音楽に目覚めた私などは、この状況を大いに残念に思っていたものです。国内に閉じこもり、冒険心を失くした内向きの若者たち。

 しかし、ユニコーンのこのアルバムを聴いた時に合点がいきました。10代の頃にこんな音楽に出会っていたら、わざわざ洋楽なんて聴かなかったかもしれないなと素直に思ったんです。悲壮感のない、本当に自然なロックです。しかもとんでもなく上手い。

 ユニコーンの三作目は何とも人を喰ったタイトルにジャケット。このおじさんは第五区七番組副組頭の中村福太郎さんです。よくもこのタイトルが通ったものだと思います。どうやらマネージャーが交代したことが大きいようです。

 前作で萌芽が見られた何でもあり路線はさらに研ぎ澄まされ、全13曲、同じような曲調のものは二つとありません。歌詞の世界もはっちゃけていて、これまたあっちゃこっちゃに飛び出している世界が展開しています。

 このアルバムでユニコーンはブレイクしました。デビュー以来初めてとなる先行シングル「大迷惑」が話題を集めたことに導かれて、アルバム自体もオリコン・チャートで3位になるという大ヒットになりました。まさに出世作です。

 このアルバムから阿部義晴がメンバー入りしていることに加え、メンバー5人全員がそれぞれ作曲しています。さらに奥田民生の他に堀内一史と阿部がリード・ボーカルをとっています。民主的なバンドです。

 公式サイトによれば、堀内は「ボーカリストが『歌え!』って言わないと、ふつうベースは歌わないでしょう(笑)」と言ってますし、手島いさむも「俺は曲なんか書かなくていい、なんだったらコーラスもしたくない、ギターだけ弾いてればいい」と思っていたのにこの結果です。

 このアルバムから西川とクレジットされている川西は「音楽性が違うメンバーが集まってたんで、とっちらかる状態になったんだけど、それでいいんじゃない?って」、阿部は「固定概念を打ち壊そうとしてた」「無理やりに近い形で説得した」。

 面白いです。奥田路線を阿部・川西がサポートして、堀内・手島を説得して、この何でもありのごった煮路線が完成したわけです。自己主張のぶつかり合いというよりも、メンバー全員のポテンシャルを最大限に引き出そうとする明るい前向きなバンド活動です。

 単身赴任のサラリーマンを描いた「大迷惑」、本格的なラテンの「パパは金持ち」、ハード・ロックな「服部」、男同士の愛情を描いた「人生は上々だ」、10歳の子供に歌わせた「ジゴロ」、無国籍な「デーゲーム」など、とにかくバラエティーに富んだ楽曲ばかりです。

 しかもそれらすべてが音は作りこまれ、あちらこちらで気になるフレーズが顔を出して、さながらロックなぞなぞ集のようです。このアルバムを起点に、さまざまな音楽を聴くようになった若者も多いのではないでしょうか。とにかく凄いアルバムです。

Hattori / Unicorn (1989 CBSソニー)