人気声優、花澤香菜の4枚目のアルバム「オポチュニティー」です。このアルバムのテーマはブックレット中の写真を見れば想像できる通り、「ブリティッシュ」なんだそうです。ジャケットの色合いはまさに曇天の英国です。

 ブリティッシュな音楽となると、私の世代ではついついレッド・ツェッペリンやキング・クリムゾンなどを思い浮かべてしまいます。そうなってしまうと、このアルバムがブリティッシュをテーマということに釈然としません。

 しかし、シンプリー・レッドやテイク・ザットあたりを思い浮かべますとしっくり来ます。彼らの全盛期ですらすでに20年前くらいです。十分クラシックなブリティッシュ・サウンドなんですね。どこがブリティッシュやねん、と最初に思ってしまった自分が恥ずかしい。

 そのシンプリー・レッドですが、何とこのアルバムに参加しています。ミック・ハックネルが曲を提供し、バンドが演奏を務める「フレンズ・フォーエヴァー」がそれです。ちなみにギターは現メンバーの日本人、鈴木賢司です。

 いかにもシンプリー・レッドらしい作品です。花澤香菜の歌と声が何やら不思議なマッチングになっていて、これはこれで面白いです。まるで性能の高いボカロのような花澤の歌い方がとても新鮮に響きます。

 アルバムのプロデュースは前作に引き続き、渋谷系と言われるラウンドテーブルの北川勝利が担当しています。彼は全13曲中5曲を作曲しています。少ないようにも思いますが、全体に北川色は濃厚な模様です。

 先行シングルは3曲、北川作曲花澤作詞の「あたらしいうた」、空気公団なる絵本も作るポップス・バンドが全面プロデュースした「透明な女の子」、それにオリコン・チャートの常連シンガーソングライター秦基博の「ざらざら」です。

 どれも意欲的な曲ばかりす。アルバムの他の楽曲でも、ライブチューンことkzや、クランボンのミト、竹達彩奈の楽曲も多く手掛けている沖井礼二、そしてグレイト3の片寄明人が曲を提供しています。いかに花澤香菜が丁寧に扱われているかが良く分かるというものです。

 そんな楽曲群を花澤香菜は見事に歌いこなしています。先のシングル「こきゅうとす」とはうって変わって冒険するというよりも、安定重視で、馴染みのあるポップスの世界を展開しています。ここではまさに90年代的なサウンドが広がります。

 そして花澤香菜の類稀な美声がこれまた安定感抜群です。この人は自分の声と歌にしっかり自覚的なようで、考え抜かれた歌です。多重録音されるとそのあたりがよく分かります。繰り返しになりますが、ボカロの最終形態のような不思議な歌です。

 ボカロは彼女の声をサンプリングしてみてはどうでしょうか。こぶしを利かせて感情を込めるのではなく、一番きれいに聞こえるように、余計な夾雑物を交えずに声をそのまま提示する。そこが花澤香菜の真骨頂です。ますますのご活躍を期待します。

Opportunity / Kana Hanazawa (2017 Aniplex)