異教徒の地と題されたスロッビング・グリッスルの4作目はライブ・アルバムです。彼らは後に数え切れないほどライブ音源をリリースしますし、ファースト・アルバムも大半がライブでしたから、お得意の形だとも言えます。

 しかし、このライブは特殊です。1980年2月16日土曜日の8時10分から9時まで、彼らのレーベルであるインダストリアル・レコードのスタジオで招待客を前にして行われたライブの記録なんです。同時にビデオも撮影され、そちらも発表されています。

 招待客のリストを見ると、インダストリアルからレコードを出していて、ビデオも撮影したモンテ・カザザを始め、評論家のジョン・サヴェージ、後にジェネシス・P・オリッジとサイキックTVを結成するアレックス・ファーガソンなど、旧知の間柄の人ばかりの模様です。

 TGのライブはしばしば暴力沙汰が起こったと伝えられていますから、決して好意的な観客ばかりを前に演奏したわけではありません。反社会的とレッテルを張られた彼らのライブは観客席から敵意も発せされていたことでしょう。

 それから比べると、知り合いばかりの中で行われたライブは、ピア・プレッシャーのおかげで普段とは違う方向での緊張があったようです。その点を公式サイトに記載されたピッチフォークの批評は指摘しています。果たしてどうなんでしょうか。

 このCDはリマスターされた新版で、1980年の通常のライブを収めたボーナス・ディスクが付けられています。そちらと比べると、まず、圧倒的に音が良いことが分かります。こちらは何と言ってもスタジオですから、録音がしっかりしています。

 さらにほんの少しとは言え、後で音が重ねられています。スタジオ作であっても1時間で作り上げた彼らなのに、このライブはそれよりも時間をかけています。その分、一発録音のライブの魅力とは方向をやや異にしているのです。

 もともと曲名は全くつけられていなかったことから考えると、ほぼ四人の即興による作品なのだと思います。通常四人もいれば音が分厚くなりそうですけれども、彼らのライブは実にストイックです。無駄な音がない。

 クリス・カーターの繰り出すリズムとシンセ、ピーター・クリストファーソンのテープ操作、コージー・ファニ・トゥッティのギターとコルネット、ジェネシスのベース。ボーカルは控えめで、枯山水のようなサウンドスケープが紡がれていきます。

 前作のような凝縮された禍々しさには欠けますけれども、その分、音楽的になってきたように思います。初期のライブに比べると、リズムが際立っていて、かなり聴きやすいと思います。テクノのプロトタイプとしてのTGをよく表しています。

 「言われた通りやるな、思った通りやれ」と題された曲があります。TGはこの言葉を深い深いところで貫いています。それを遺言に、TGは♪目を開けて、大きく深呼吸して、いい気分で♪アルバムとともにその活動を一旦終えることになりました。

Heathen Earth / Throbbing Gristle (1980 Industrial)