分類に困る人です。一応、HMVやアマゾンはロックに分類しているので、私もとりあえずはロックに分類しておきたいと思います。もはやジャンル分けは意味がないと威勢よく言いたいのですが、分類しないと整理できません。困ったものです。

 ピーター・ブロデリックはさまざまに形容される人ですけれども、私のお気に入りはポスト・クラシカル・フォークというものです。米国ポートランド出身のピーターはクラシックやフォーク、ロックにサントラとさまざまな分野をまたにかけるアーティストなんです。

 オレゴン州ポートランドには90年代からさまざまなミュージシャンが集まるようになり、ロスやサンフランシスコなどよりも注目される音楽シーンが存在します。ピーターはその中で10年にわたって活躍している注目のアーティストです。

 本作品はピーターによるピアノとボーカルだけのシンプルなアルバムで、多彩なピーターのアルバム群の中では異色ともいえる作品です。ピアノ作品としては2007年に「ドシル」というアルバムがあるそうなので、ほぼ10年ぶりと言えます。

 この作品のインスピレーションの元はジョン・ケージです。「ケージの自伝を読んで、音楽に対する彼のポジティヴな姿勢に惹かれたんだ」とピーターが語っています。「彼の自伝に影響を受けて最初に作った曲が『アンダー・ザ・ブリッジ』なんだ」。

 「アンダー・ザ・ブリッジ」はケージのチャンス・オペレーション方式を使って作曲されています。すなわち、複数の楽譜に番号をふって、サイコロでその順番を決めていくというものです。ケージを学ぶと誰もが一度はやってみることです。

 「曲が完成した時は、自分を超えた何かとコミュニケートしているような不思議な感じがした」そうで、それはすなわち成功したということです。たいていの場合は何ともつまらない音楽になるものです。さすがはアーティストです。そこそこ面白い曲になっています。

 「普通、音楽家は自分のエゴを表現しようとするけど、彼(ケージ)の場合はエゴを超えたものを表現しようとしているところが素晴らしい」というように、ケージの著作を読むとまるで禅僧のようだということが分かります。我執を捨てる。ピーターには大いに響きました。

 その実践の一つは、アルバムの仕上がりはエンジニアのタッカー・マーティンに完全にまかせたことで、そのために、本人は仕上がりを聴いていないということです。ここはケージの影響が如実に表れています。いかにも禅的な所作です。

 本作にはジョン・ケージの「イン・ア・ランドスケープ」をオリジナルに忠実に演奏したもの、これまたチャンス・オペレーションを使って作った詩を朗読するタイトル曲、奥さんの曲の弾き語りカバーなど、ピアノと声だけですが、いろんな表情の曲が並んでいます。

 いずれも静謐な美しい音楽ですが、ジャズ的でもクラシック的でもなく、かといってエレクトロでもない。やはりロック的な感覚です。オリジナルに忠実とは言え、こんなロックなケージは初めてです。ケージの自伝に触発された経験は私にもあります。親しみ全開です。

参照:CDJ2016年12月号(村尾泰郎)

Partners / Peter Broderick (2016 Erased Tapes)