ノラ・ジョーンズはデビュー作と2作目がともに1000万枚以上を売り上げるという恐ろしいことをやってのけました。さぞや忙しかったことでしょう。そんな喧騒の後、3年を経過して発表された3作目がこちらです。

 今回の一番の特徴は、全曲が共作も含めてノラ・ジョーンズのオリジナルになったということでした。ノラはシンガー・ソング・ライターとしての矜恃が強く、他人の曲を歌ってヒットしても満足できなかったそうですから、これは当然の流れなんでしょう。

 ノラはツアー中も曲を書いていたそうです。普通の人ならば、しばらく休んでということなのでしょうが、創作意欲がそうはさせず、3年の間にも音楽のことばかりを考えていたと思われる働きぶりです。旬の人はやはり違います。

 そして、前作までのプロデュースを行ったアリフ・マーディンがお亡くなりになったこともあって、プロデュースはリー・アレクサンダーに変わりました。この人はノラのパートナーでもあり、デビュー前から一貫してノラを支えてきた人です。

 今回のジャケットはどぎつい赤にめまいを催させる黒と白のスカートが広がっているという前2作とは異なるテイストです。さらに裏ジャケにはメラニー・リトル・ゴメスというアーティストの描く不気味なノラの肖像画が使われています。

 映画「ビッグ・アイズ」のマーガレット・キーンの絵柄と監督したティム・バートンのキャラクターを足して二で割ったようなその絵はこれまでのノラのイメージとは随分違います。デビュー作の青、二作目の黄色を基調とした落ち着いた色合いからは遠い。

 サウンドにもその変化は見て取れます。プロデューサーの違いも大きいのかもしれませんが、一聴してブルースやR&B的な色彩が強い。カントリー風の曲にしてもよりディープでダークな感覚がまとわりついています。

 2曲目の「シンキン・スーン」はまるで中期以降のトム・ウェイツの作品のようです。音数は少な目ながらもパーカッションの使い方などはまるでトム。トム本人が歌ったとしてもなんの違和感もなさそうな曲を、トムのファンでもあるノラ・ジョーンズが楽しげに歌う。面白いです。

 シングル・カットされた「シンキン・アバウト・ユー」はこれまでの作風を踏襲した曲です。さすがにシングル曲は冒険していないということでしょう。そこはかとなく新作を代表していて、前2作との橋渡しを見事に果たしています。安心して聴ける。

 一方で、「マイ・ディア・カントリー」などは政治色を鮮明にした楽曲です。基本はピアノの弾き語りで歌われるボードヴィル調の曲はこれまでのしゅっとしたノラ・ジョーンズの姿とは違います。妙に耳に残る曲で政治的なメッセージを語るとはさすがです。

 変化、変化とは書きましたけれども、もちろんノラ・ジョーンズの歌の魅力は少しも減じていません。何をどう歌っても自分の世界にしてしまうノラの歌唱力は偉大です。大ヒット作を立て続けに出した後の作品なのに、自然体で自分の世界をしっかり描いていて秀逸です。

Not Too Late / Norah Jones (2007 Blue Note)