ご多聞に漏れず、私も映画「エクソシスト」がマイク・オールドフィールドの初体験でした。悪霊が出てくるまでの「エクソシスト」はそれはそれは怖かった。夜遅くエクソシストとなる神父さんが訪ねてくる場面でのこの音楽には本当に背筋が凍りました。

 弱冠二十歳のマイク・オールドフィールドがこの作品を発表した時、誰もがこんなに売れるとは思っていなかったことでしょう。ところが、この作品はリチャード・ブランソンのヴァージン帝国の礎となるほどの大ヒットになったわけですから、世の中分かりません。

 マイク・オールドフィールドは15歳で姉サリーとのデュオ、サリアンジーでレコード・デビューを果たした後、ケヴィン・エアーズのバンド、ザ・ホール・ワールドに参加しています。ここで大いに刺激を受けたマイクは多重録音でデモ音源を制作し始めました。

 ブランソンが作ったマナー・スタジオで若いエンジニアのサイモン・ヘイワースとトム・ニューマンと出会うと、二人はマイクのデモに可能性を感じ、同スタジオにてこの作品の録音を開始、大いに予定を超過しながら完成したのがこのアルバムです。

 一説には2300回も録音を重ねたといいます。若干名のゲストは参加していますが、ほとんどの楽器を自身で演奏して、それを16トラックのレコーダーに重ねていったわけです。コンピューターなどない時代に恐ろしいまでに根気がいる作業です。

 LPレコードの両面に一曲ずつ、実質1曲のみ、ボーカルはなし。ザ・プログレ仕様で、さまざまな処理を施したギター、オルガン、ピアノやフルートなど多種多様な楽器が使用されていますが、シンセサイザーは使われていません。基本はアナログな音です。

 スタジオにやってきたボンゾ・ドッグ・バンドのヴィヴィアン・スタンシャルにアルバム中での楽器紹介を依頼し、彼は芝居がかった様子でそれに応えます。その極みが♪チューブラー・ベルズ♪というくだりだったので、それがアルバム・タイトルになりました。

 チューブラー・ベルズはNHKのど自慢の鐘です。ジャケットには変形した姿で描かれています。紹介の後にはきちんと鳴り響きますが、別にアルバムを通して鳴り響いているわけではありませんからご心配なく。

 この作品はエクソシストのサントラに起用されたことがきっかけとなって、アメリカでイージー・リスニングとして人気を博し、それが英国にも戻って来て、結果全世界で3000万枚近い売り上げを誇るモンスター・アルバムとなりました。

 長い一つながりの曲ですが、比較的明快なパートに分かれます。それぞれをミクロに見ていくと、ミニマル音楽のような冒頭部から、ドラムも入ったロック・パートまでさまざまです。音を組み立てて部品を作り、それを重ねて全体を作り出す手腕にほれぼれします。

 都会的でもあり、牧歌的でもある。ちょっと湿った曇天のイングランドの風景が似合います。音楽が環境を作り出し、それを聴くことが体験となる。ただし、環境音楽とは異なり、無視することはできない。胸にぽっと火が灯る美しいアルバムです。

Tubular Bells / Mike Oldfield (1973 Virgin)