高橋アキのサティを聴きに行ってきました。若いピアニストが裾の広がったドレス姿で弾いていたのに対して、高橋さんはまるで作務衣かと思われる青い衣装で出てこられ、実に軽やかにサティを弾かれていました。

 楽譜にかかれたテキストを演奏とともに寸劇風に朗読する催しでした。サティ自身はそういうことをするなと言っていますが、「スポーツと気晴らし」などはそうされることを意識していたとしか言いようのないはまりようでした。

 他に4人のピアニストがサティを演奏しましたが、やはり高橋アキのサティは別格でした。長年連れ添ってきただけに、自家薬籠中の物にしています。音の響きから、間の取り方から、何から何まで絶品でした。

 これは高橋アキによる新しいサティ作品集の第三弾です。今回のジャケットはサティの自画像かと思わせる充実ぶりですが、これは廣中薫というアーティストの作品です。この方の最新作はおかあさんといっしょの最新ベストCDのデザインだといいますから面白い。

 サティ生誕150年のリリースとなった本作ですが、音源は第二弾と同じセッションからです。前作は1913年から19年までの作品をまとめていたのに対し、こちらはそちらから漏れた曲を集めたのでしょう。年代は随分ばらけています。

 しかし、かつて高橋アキのサティ録音集のタイトルにもなっていた「夢みる魚」や、ダダイズムの先駆けとも言われる喜劇「メドゥーサの罠」、タイトル大賞をあげたい「犬のためのぶよぶよした本当の前奏曲」など、今作にも有名曲が配置されています。さすがです。

 サティには生前に発表されていない作品も多く、さらに遺稿から発見された曲も多い。生前は不遇だったことが分かります。今でも人気は高いですが、やはりクラシックの世界ではまだ異端のレッテルを払拭し切れたわけではありません。

 そのサティを追及し続けている高橋アキは凄いです。このセッションでは、「彼女が意識した言葉との関り合いや、自由なテンポの選択、リラックスした音作りを取り込み、ひと回り大きなサティの世界を目指してもらった」とプロデューサーの井坂紘は語ります。

 高橋アキ自身も「サティ自身が楽譜に書き込んだ言葉やお話と、音楽のフレーズが絡み合ってモザイク的な構造を作り上げる彼独自の作曲方法を、以前よりも深く追求することによって、さらに演奏に変化が生じたのではないか」と語っています。

 「理解するにつれて演奏はどんどん遅くなる」サティの作品は、いつまで向かい合ってもなお新鮮な魅力が生じてくるようです。楽譜に書き込まれた言葉だけではなく、音の構造そのものに施されたさまざまな仕掛けが汲めども尽きぬ謎を生み出してくるのでしょう。

 ルネ・クレールの「幕間」にはジャンプする帽子とステッキのサティが写っています。デフォルメすればこのジャケットのようですけれども、その飄々とした姿勢はまるで禅僧のようです。ジャケ絵も達磨和尚のようです。サティの作品はいつも風に吹かれています。

Plays Erik Satie 3 / Aki Takahashi (2016 Camerata)

この作品からではありませんが...。