クラウド9というのは、米国の気象専門用語の一つで、9種類に分類された雲のうち、一番高いところにある雲、すなわち入道雲を指すそうです。そこから転じて、浮き浮きしているとか、至福の状態とか、そういう状態を指すことになりました。

 入道雲ですよ。夕立が来るかもしれないのに、アメリカ人は呑気なものです。確かに、モクモクと盛り上がっていく様に心躍ることは否定しませんし、夕立そのものも子どもの頃は楽しかったものです。大人になると、雨は雨。ちょっと反省します。

 その「クラウド9」をタイトルにした、シャンティの作品です。シャンティは、2011年に欧州をツアーしてまわりました。ツアーは見事に成功し、彼女にほれ込んだオランダのプロデューサーが、彼女の作品を欧州で発売しようと画策しました。

 その結果、誕生したのがこの作品です。2010年の「ボーン・トゥ・シング」、2011年の「ロマンス・ウィズ・ミー」の二枚のアルバムからの楽曲を中心にセレクトし、それをリミックスした上で、ボーカルを再録音して作り上げられました。

 リミックスの際、ピアノのマルク・ファン・ルーンとトランペットのアンジェロ・ヴェルプローゲンをゲストに迎えてもいます。彼らはオランダのジャズ・ミュージシャンで、このアルバムと同じチャレンジ・レコードからアルバムも発表しています。

 シャンティは、当時のブログにて、「今回アムステルダムのレコーディングで、けっこう DEEPなこと学びました。」と記しています。「でもこれは先に話してしまうとかなりマニアックな話になるので、あえて語りません。」と意地悪ですが。

 大たい言ってることは分かります。録音がヨーロッパ的です。「音楽マニアにはちょっとした歌い方や音のエンジニアリングの違いとかも感じ取ってもらえることでしょう。」と本人が語る通り、オリジナルとはニュアンスが異なっています。

 そんなに正面切って音が変化しているというわけではありませんが、確かに違う。声もやはり少し違う。「1回目とってもとってもシンプルに感じると思う。」という通り、ヨーロッパ的なシンプル。ユーロ・ジャズ的シンプルさです。

 マルクとアンジェロのプレイも、バラードものを得意とする二人だけあって、いかにもヨーロッパ的です。アメリカ系のシャンティですが、ここはヨーロッパ色に染められていて、落ち着きがたまりません。年齢がぐっと上がったようでもあります。

 「このアルバム、するめ系なんです(笑)」「噛めば噛むほど味がでる、聞けば聞くほど味が出る(笑)」と語っているのも、しっかりとユーロ・ジャズ的な制作過程を経て出来た作品への自信の表れでしょう。

 やや老成気味なのが気になりますが、完成度が高いことは疑いありません。ボートラで「見上げてごらん夜の星を」が入っている意図はよく分かりませんが、ヨーロッパ・ジャズで完結してしまうと出口が無くなるからかもしれません。

Cloud 9 / Shanti (2012 Challenge)