ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞することが決まりました。まことにおめでたいお話です。ポピュラー音楽の歌手だということで賛否両論あるようですが、もともと詩というものは歌だったわけですから、歌詞は詩ではないと言わんばかりの主張は全くおかしいです。

 しかし、ディランは今夜のコンサートでもノーベル賞のことは一言も言わなかったそうで、そんなことで浮かれたりしないところに感動しました。ノーベル財団の真意はどうであれ、今やノーベル賞は権威ですから、そんなことで喜んでいてはディランの名が廃ります。反省。

 このニュースで流される曲は判で押したように「風に吹かれて」です。ディランは2016年現在、現役バリバリで何度目かの黄金時代を迎えているというのに、この調子では「風に吹かれて」の一発屋だと誤解する子どもが出てくるのではないかと心配になります。

 さらに日本では一斉に「学生街の喫茶店」が流されることになりました。♪片隅で聴いていたボブ・ディラン♪という歌詞が含まれているためです。すっかりお爺さんになられた作詞の山上路夫さんまでテレビに出演されていました。

 日本でのボブ・ディラン像は、一般的には反骨のフォーク歌手のまま塩漬けになっています。その姿も真実の一面ではあるので、それを受け入れるとすると、余計にこの「学生街の喫茶店」とボブ・ディランとの間に歌詞以上の接点がないことが分かってきます。

 ガロは洋楽好きの3人が、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのコピー・バンドとして結成したバンドです。アコースティック・ギターのアンサンブルと美しいコーラスが持ち味のフォークなバンドでした。ディランとも近いといえば言えるルーツの人たちです。

 そして、解散までに8枚のアルバムを残したという人気グループですが、一般的にはウルトラ・ヒットとなったこの曲以外、今となってはさほど知られていません。「学生街の喫茶店」を歌っていた伝説のバンドというのが通り相場でしょう。

 当初、B面に収録されていたにもかかわらず、A面の「美しすぎて」を凌駕する人気が出たために急きょAB面を入れ替えて発表されて大ブレイクしたという、伝説度をいや増しに高めるエピソードが嬉しいです。

 間奏にオーボエ族のコーラングレを使っていて面白いですが、基本的には歌謡曲です。山上路夫作詞、ドラクエすぎやまこういち作曲、スパイダース大野克夫編曲という、歌謡界のど真ん中の布陣です。サウンド面ではディランとの接点は見当たらない歌謡曲サウンドです。

 私は歌謡番組でメンバーの一人、ロン毛にトンボ眼鏡のマークが昔の恋の想い出にめそめそ泣いていた姿を子ども心に覚えています。この曲にはそんな姿がとてもよく似合うんです。連合赤軍事件が東大紛争を完全に過去にしてしまった年。やさしさの時代の始まりです。

 そんな曲の中で、ボブ・ディランはすでに過去の思い出にされてしまっています。「フォールン・エンジェル」を聴いている人にとって、このディラン像ははるかに遠いところにあるでしょう。いろいろな聴き方があるとはいえ、ディランをそこで止めてしまうのはもったいないです。

Gakuseigai No Kissaten / GARO (1972 Alfa)