フレッド・フリス自身がジャケットに登場したのは「ギター・ソロ」以来のことです。しかも今回は顔のアップです。両者の共通項は一目瞭然です。どちらも基本的にはフリス一人で仕上げられたアルバムです。

 今回のジャケットは後から顔だけ結構適当に色付けされています。この感覚がまた飄々としたサウンドにマッチしています。フレッド・フリスのジャケット選びのセンスはなかなかのものがあるなあと感心いたします。

 レジデンツのラルフ・レコードに残した三部作の最後を飾る作品です。このアルバムを聴いて、まず驚くのは1曲目から出てくるフリスのボーカルです。ヘンリー・カウ時代には「お前は歌うな」と言われていたフリスのボーカルです。

 ザ・ボーカリストとしての力量を云々しても仕方がない類のボーカルです。音程を外しているわけではないですから、下手というわけでもありませんが、とにかく上手い下手の論評をしてもしょうがない、少し脱力したボーカルです。

 当時はファンの中には戸惑う人も多く、前二作が比較的好調な受け止められ方をしていたのに反して、酷評されていた記憶があります。前二作を聴いているわけですから、今更、ザ・プログレでもあるまいと思うのですが、ヘンリー・カウへの追想は深いです。

 オリジナルは全部で13曲。いずれもフリスの自宅で4トラックのテープ・レコーダーにて録音されました。宅録です。奥さんだったティナ・カーランとマサカーのビル・ラズウェルが1曲ずつベースを弾いていたりしますが、基本的にフリス一人で仕上げています。

 ドラムスは、用途を定めずに録りためていた4人のアーティストのドラム・サウンドを使っています。当時はそういう言葉は一般的ではありませんでしたが、まさにサンプリングと言ってよいでしょう。宅録の醍醐味です。

 さらに当時のレーガン大統領の演説がコラージュされていますし、これまでの作品と地続きになっていることを感じさせる、スウェーデン民謡をアレンジした曲も含まれています。前二作はバンド・サウンドだったのに対し、やはりソロだけにやりたい放題度が違います。

 一曲一曲が入魂の出来と言ってよいでしょう。同じような曲は一つとしてないぞという気概を感じます。ですが、曲が短いこと、多くの曲でひょろひょろのボーカルが聴こえることなどから、この作品を予想外のポップ・サウンドと捉えるのが一般的です。

 ポップって何だろうという疑問が生じますけれども、本作が普通の意味でポップなわけではありません。フリスの声質を除けば、さほど親しみやすい要素も見当たりません。「ギター・ソロ」の路線の延長上に素直に乗っけてみるとちゃんと腑に落ちる作品です。

 ますます精力的な活動を続けるフレッド・フリスは、自宅にこもっても十分外に向かって開いています。好奇心旺盛に世界中を駆け巡るサウンド・アーティストが、貯め込んだものを一旦整理してみたというアルバムでしょう。フリスの音楽観がよく分かる作品です。

Cheap At Half The Price / Fred Frith (1983 Ralph)