前作に引き続き靴下ジャケットです。これは履ける靴下ではなくて、靴下を象ったオブジェなのですが、前作と並べてみると嬉しくなります。LP時代には周囲の余計な枠がなかったので、嬉しさ倍増でした。

 前作を制作した後、ファウストとツアーに出たヘンリー・カウは、シェイクスピアの「テンペスト」の音楽を書いたり、マナー・スタジオでコンピ盤のための作品を録音したりと活動を広げましたけれども、その結果なのか、ジェフ・リーが脱退してしまいます。

 しかし、1974年1月、リンジー・クーパーがジェフの抜けた穴を埋めることになりました。彼女は王立音楽院で本格的なクラシック教育を受けています。ヘンリー・カウ初の正規のクラシック奏者です。彼らのそれまでの音楽を考えると少し意外な気もします。

 おまけに彼女はバスーンとオーボエなどという、とうていロック・バンドでは使われない楽器を操っています。ついでにリコーダーも合わせて、あまりなじみのない音が作品に芳醇な香りをもたらしています。大正解です。

 このアルバムは、リンジーの加入を得て、初期カウの音楽が完成を見た作品です。スタジオ入りした時、リンジーは親知らずを四本抜いたばかりで、まだ血が完全には止まっていなかったそうです。他のメンバーはよほどうずうずしていたんでしょう。リンジーには災難です。

 さらに事前の準備が間に合わなくて、LP片面分しか曲が用意されておらず、B面はインプロビゼーションを基に構成するという冒険に出ています。もう少し待てなかったのか。ここらあたりはまさに若気の至りでしょう。

 そんなわけでA面とB面ではかなり印象が異なります。A面は、しばしば室内楽ロックとも称される彼らの持ち味が顕著にでています。そのA面はヤードバーズの「ガット・トゥ・ハリー」を下敷きにした「ウルムを覆うビターン・ストーム」で始まります。

 原曲があるとはとても思えないカウ節の後は、ピアノが光るグリーヴスの「半眠半醒」、そしてカウの代表曲である「廃墟」と続きます。前作を一段推し進めたこの美しいサウンドは実に素晴らしいです。リンジーの功績大です。

 そして、「テンペスト」のために書かれた作品の一部「厳粛な音楽」に導かれてスタジオで制作した楽曲が並びます。こちらも結局は作曲された部分も加え、さらにオーバーダブやテープ・スピードを変えたりするなど、いわゆるインプロビゼーションではありません。

 複雑な作曲、実験的な録音、即興がないまぜになって、怒涛のように押し寄せてくるヘンリー・カウのサウンドは健在です。しかし、ちょっと理屈っぽくて、予測不可能なサウンドとは言い切れないもどかしさが残るところが気になります。私はA面の方が好きでした。

 なお、ヘンリー・カウがスタジオ入りした際、入れ違いにスタジオから出ていったのはスラップ・ハッピーの面々でした。やがて、この二つのバンドは合体したり別れたりします。概ね同じバンドの括りにいれても違和感がありません。というわけで次作に続きます。

Unrest / Henry Cow (1974 Virgin)