日本でも最近ボリウッド・ダンスを踊るチームが数多く見られるようになりました。インド人の少ない日本ですらそうですから、インド人口の大きいイギリスでは、ダンス・チームのみならず、こうしてボリウッド音楽を奏でるバンドがいても不思議はありません。

 ボリウッド・ブラス・バンドは英国の10人組ブラス・バンドです。演奏する音楽はボリウッドですが、バングラには欠かせない打楽器ドールを演奏するインド系英国人を除けば、基本的にはネイティブ・ブリティッシュによって構成されています。

 彼らは1992年にロンドンで開かれたストリート音楽フェスティバルにて、インドからやってきたブラス・バンドの対バンとしてにわか仕立てで結成したブラス・バンドです。そこですっかりボリウッド音楽に魅せられて、バンドとして活動していくことになりました。

 彼らは自らをウェディング・バンドと称しています。実際に各地の結婚式で演奏することが多いようです。インドでも結婚式にはブラス・バンドは欠かせません。私もインド人の結婚式に何度か出席しましたが、ブラス・バンド、いました。

 ブラス・バンド自体はオスマン帝国の軍楽隊が発祥らしく、それがイギリスを経由してインドに伝わり、かの地で隆盛をきわめたという次第です。首から下げて両側から叩くインド打楽器ドールはまさにブラス・バンド向きの楽器ですから、受容もスムースだったことでしょう。

 この作品は、ボリウッド・ブラス・バンドが2008年8月にノルウェーのオスロ・オペラ・ハウスにて行ったライブを録音したものです。彩りを添えるのは、パキスタン出身のカッワーリーで鍛えたラファーカト・アリ・ハーンです。

 ラファーカトはボリウッド映画のプレイバック・シンガーとしても活躍していますから、ここでの相性はばっちりです。さらにストリングスが加わっています。こちらはオスロ・ボリウッド・ストリングスと命名されているところなど、急造くさいですがどうでしょう。

 イギリスのバンドがノルウェーでボリウッド音楽を奏でるというのもまことにインターナショナルな話で大変結構なことです。そんな状況ですから、ここで選ばれた曲はボリウッド60年のトリビュートになっています。ボリウッドを代表する曲ばかりです。

 特に変わったアレンジをしているわけではなく、楽器が違うことをのぞけば、比較的オリジナルに忠実にボリウッドの歴史を彩る楽曲の数々が演奏されていきます。ウェディング・バンドの名の通り、披露宴にぴったりの楽しい演奏に心浮き立ちます。

 選ばれた曲の中では、アルバム・タイトルにもなっている、ARラフマーンの名を世界に轟かせた「チャイヤー・チャイヤー」がやはり光っています。アンドリュー・ロイド・ウェイバーを魅了したのはこの曲だそうです。

 古くは1951年から2007年までの長い歴史を俯瞰する形になっており、どれもこれも有名な曲ばかりです。先鋭的なわけでは全くなく、まことに結婚式向けのハッピーな演奏です。こういう選択肢もあるのだなとほっこりした気分になりました。

Chaiyya Chaiyya / The Bollywood Brass Band featuring Rafaqat Ali Khan (2011 Felmay)