カルナタカ州はインド南部に位置する州で、州都のバンガロールはIT産業で有名です。さらにインド古典音楽の二大流派の一つであるカルナティックの中心でもあります。文化に産業にと大いに栄えています。

 ラグー・ディキシットはカルナタカ州の古都マイソール生まれの33歳です。彼は古典舞踊バーラトナティヤムの踊り手でもあります。古典舞踊は音楽と切っても切れない関係にありますから、彼も子どもの頃からインド音楽に親しんでいたことになります。

 ディキシットが音楽に目覚めたのは、大学時代にロック好きの友人から古典舞踊を踊っていることをからかわれたことがきっかけでした。発奮した彼は2か月にわたって大学も舞踊もそっちのけでギターを学びました。

 始めはなにくそで始まったにしても、神様のことばかり唄うんではなく、自分自身の考えを歌にのせて、自在に感情を吐露できるロックの魅力に取りつかれるのに時間はかかりませんでした。こうして彼はミュージシャンとしてのキャリアを歩み始めます。

 手始めに彼はアンタルグニというバンドを結成、カルナタカ州随一の有名バンドに押し上げることに成功します。しかし、残念ながらアルバムを発表することなく解散してしまいました。その後はソロ・プロジェクトとしてさまざまなミュージシャンと共演するようになりました。

 そして、ついにボリウッドの人気音楽家デュオ、ヴィシャール・シェカールの目に留まり、こうしてアルバムを発表するに至りました。ヴィシャール・シェカールの入れ込みようは半端ではなく、このアルバムを出すためにレーベルを立ち上げたほどです。

 このアルバムは、活動開始後10年もかかって発表されただけに、コンサートでの代表曲が並んでいます。参加ミュージシャンも気心のしれた連中ばかりです。中でもバンガロールのトップ・ロック・バンド、サーマル&ア・クォーターのブルース・リー・マニのギターが光ります。

 基本はプログラミングされたドラムにギター、ベース、時々マンドリンとバイオリンという構成で、全曲ラグーの作曲、編曲、プロデュースです。歌われる言語は英語であったり、ヒンディー語だったり、カルナタカのカナダ語であったりしています。

 彼はゴアで行われたレイブの催しに参加して好評を博したりしていますが、ここで聴かれる音楽はインドのフォーク音楽をベースにした音楽です。実際、彼は ラジャスタンのフォーク・フェスティバルで「宇宙的なつながり」を感じたそうです。

 ただ、彼の「アーシーで、直感的で、美しい」音楽は、たとえば、打ち込みのドラムが奏でるリズムが決してバングラではないように、南インドの香りを強く感じさせてくれます。大地ではありますが、若干緑豊かな雰囲気。素晴らしいのびやかなボーカルとギター。お勧めです。

 一言添えますと、このCDの作りは素晴らしいです。歌詞付で装丁も凝っている。それになんとおまけにアルバムから二曲を収めたCDがついていて、「誰かにあげてくれ」なんて書いてあります。愛に溢れたCDと言えましょう。

Raghu Dixit / Raghu Dixit (2007 Counter Culture)