バーバンクはワーナー・ブラザーズの本社があるロスアンゼルス近郊の都市の名前です。60年代終わりごろ、ワーナー・ブラザーズで、後に社長となるレニー・ワロンカーが中心になって世に送り出したサウンドをバーバンク・サウンドと言います。

 「大阪」と言えば、大阪に住んでいる叔母さんのことを指すという類の話です。地名というのはアイデンティティーの重要な要素ですし、何やら地縛霊の匂いも漂ってきますから、地名付きのレッテルは否が応でも印象に残ります。

 ハーパーズ・ビザールはバーバンク・サウンドの代表的なアーティストです。後にプロデューサーとして大成功を収めるテッド・テンプルマンが在籍したことでも有名です。良くも悪くもワーナー・ブラザーズの顔でした。

 そのバーバンク・サウンドとは何者かということですが、そもそも1960年代終わりのロック華やかなりし頃に、そんなことにはわれ関せず、我が道を歩んだサウンドだと言えます。日本では「ソフト・ロック」という言い方をされることも多いです。

 もともとワーナー・ブラザーズは映画のサントラを制作することを使命とした会社でしたから、ハリウッド・テイストが全開です。ですから、バーバンク・サウンドはいわゆる普通のロックやポップスではなくて、スタンダードなジャズやポップスで構成したサントラ的作品となります。

 この作品はハーパーズ・ビザールの3作目です。最高傑作に推す人も多い立派な作品です。アルバムは人並み外れた白昼夢の持ち主であるウォルター・ミティを主人公としたダニー・ケイ主演の映画「虹を掴む男」に鼓舞された作品です。

 プロデューサーのレニー・ワロンカーが長年温めてきたアイデアなのだそうで、さまざまな白昼夢を表現しているのでしょう。たとえば、バカラックの「ミー、ジャパニーズ・オーイ」は日本、「ラス・マニャータス」はメキシコと、世界をまたにかけるところなど白昼夢ならではです。

 間奏曲を効果的に使い、映画やミュージカルの歌や、ポップスのヒット曲を、さわやかなポップスとして演奏しています。繰り返しますが、60年代終わり頃のロックが最も反骨精神に溢れていた頃に、一見エスタブリッシュメント寄りの姿勢を堂々と貫くところがカッコいいです。

 この作品には編曲者としてニック・デカロを始めとする6人の名がクレジットされています。全部で19曲あるとは言え、6人もの編曲者がいれば、アルバムとしての一体性は損なわれそうですが、そうはなっていません。

 プロデューサーを務めているレニー・ワロンカーのリーダーシップなのか、極めて統制がとれていて、アルバムは全部で一曲であるかのような一体ぶりを示しています。音を控えめにした演奏と美しいコーラス・ワークが全編を埋め尽くしています。

 聴けば聴くほど味わいが増してくる緻密なサウンドです。映画音楽とも異なり、紛れもない上質のポップ・サウンドは作品自体で完成しています。後の渋谷系ミュージシャンやキング・オブ・ルクセンブルグなどがカバーしたのも良く分かります。

The Secret Life Of Harpers Bizarre / Harpers Bizarre (1968 Warner)