高橋アキによる新しいサティ作品集の第二弾です。前作が2013年12月19日と20日の録音だったのに対して、本作品は2015年5月6日から9日までと約2年半の間があいています。しかし、録音場所は全く同じ、イタリアのサンタ・クローチェです。

 ピアノも同じでファツィオーリF278です。これは、イタリアが誇る現在最高のピアノの一つで、至高のコンサートグランドだそうです。このCDの発売元であるカメラータ・トウキョウからはピアノ名を冠したCDが発売されているほどです。まさに名機です。

 今回のアルバムにはサティの1913年から19年までの作品群が収録されています。サティが50歳前後の作品です。ここでの有名な曲は「スポーツと気晴らし」と「乾からびた胎児」でしょうか。知名度からすれば第一集には敵いません。

 しかし、何だかいろいろある第一集とは違って、この落ち着いた第二集も私は大好きです。それにまずは北見隆のイラストを使ったジャケットがいいです。北見は本の装丁でよく見かける人で、一番有名なのは赤川次郎の三毛猫ホームズでしょうか。

 彼はサティ研究で名高くてこのCDに付属のブックレットにも解説が記載されている秋山邦晴の「エリック・サティ覚え書」の装丁も担当していますから、よほどサティと相性がいいのでしょう。実際、この絵はサティの世界にぴったりとマッチしています。

 プロデューサーの井坂紘によれば、前作は「彼女のサティの演奏経験を尊んで、あまり演奏スタイルを変えないように配慮した」けれども、今回は「サティの音楽の意図する譜面上のアクセントや表示記号を深く読みながら、私なりのアドヴァイスもした」そうです。

 結果、出来上がったのは、「たぶん、昔の演奏よりは遅いテンポで、少したっぷり目かもしれないが、むしろ、それを我々は意識した」ピアノ・ソロです。高橋アキに入れ込んでいる井坂紘だからこそできる協業でしょう。

 このゆったり目な演奏が素晴らしいです。歳をとるとともに、皮肉度を増していくサティ独特の感覚をあくまで美しく響かせてきます。何とも言えない間が素晴らしい。サティの解釈としてはこれ以上のものはないのではないでしょうか。

 ところで、サティは楽譜の行間にショート・ショート風の文章を書き込んだり、楽譜そのものが「眼でみる楽譜」になっていると言います。「スポーツと気晴らし」などは音で情景を描写していますし、秋山邦晴は「ことば⇒視覚化⇒音楽化」と分析しています。

 そうなると、映像メディアが発達している現代ならば、ドラマや映画の劇伴音楽が最も近いと言えます。実際に映像がない分、音楽の純度は高いのですけれども、サティが現代に生きていれば素晴らしいサントラ作家になったかもしれないと思います。

 家具の音楽とも言われる通り、音楽だけによる起承転結を目指していないところがサティの現代に通じる魅力なのだと思います。その魅力を表現できるクラシックの音楽家はなかなかいません。日本に高橋アキがいることは大変誇らしいことです。

Plays Erik Satie 2 / Aki Takahashi (2015 カメラータ・トウキョウ)