デッカのボックス・セット全50枚をちょっとずつ聴いています。いよいよ大詰めの49番目がこの作品です。ウィーン八重奏団によるメンデルスゾーンとベートーヴェンで、ポピュラー音楽的に言うと2イン1です。

 しかし、このボックスはそういう形をとっておらず、メンデルスゾーンが本編、ベートーヴェンがボーナスという扱いになっています。CDはLPに比べると収録時間が長いので、余った時間に多少なりとも関係のある作品を埋めていこうという作戦です。

 このCDの場合は、演奏者が同じウィーン八重奏団です。この八重奏団は、ウィーン・フィルの首席奏者たちによるオクテットで、コンサート・マスターだったヴィリー・ボスコフスキーが主宰した楽団です。

 たしかに1959年録音のベートーヴェンはボスコフスキーが参加していますが、1972年に録音されている本編のメンデルスゾーンの方は、アントン・フィーツが主宰しています。彼はチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のコンサートマスターをしていた人です。

 重複するメンバーはヴィオラのギュンター・ブレイテンバッハのみとなっていて、13年の時の重みを感じます。同じ名前のオクテットですけれども、中身は全然違うということです。よくもボートラにしたものです。

 さて、メンデルスゾーンは神童と呼ばれた音楽家です。この弦楽八重奏曲はなんと16歳の時に作曲した作品です。並みの16歳ではありません。彼の偉業の一つであるバッハの「マタイ受難曲」演奏が20歳。誰しもが認める早熟の天才だったわけです。

 裕福な家庭に生まれて何不自由なく育ったのかと思いましたが、ヨーロッパのユダヤ人として苦難を乗り越えて生きていたということですから、単なるお坊ちゃんでもないわけです。ドイツ音楽界の重鎮として君臨するだけのタフさを持ち合わせていたのでしょう。

 この楽曲はヴァイオリンが4人、ヴィオラが2人、チェロが2人となる弦楽八重奏で演奏されます。弦楽四重奏×2の編成です。ロックで言えば、ツイン・ドラムにツイン・リードのようなイメージでしょう。音の厚みが凄いです。

 お友達でヴァイオリンの先生のお誕生プレゼントとして作曲された曲だそうです。こんな曲をもらったらさぞや嬉しいことでしょう。高校生が先生に贈るプレゼント曲といえば、普通は内輪受けするフォーク曲くらいです。教え子にもつべきは天才児に限ります。

 16歳が作曲したということを割り引く必要は全くなく、完成度の高い楽曲だと思います。そして、とても若々しくて瑞々しい。結構忙しい曲ではないでしょうか。はちきれんばかりの若さというのはそういうところを指すのでしょう。

 ベートーヴェンの七重奏は楽器の編成から何から全く違います。木管楽器も入りますし、ダブル・ベースまで。こちらも初期の作品で、苦悩する辛気臭いベートーヴェンではなく、メンデルスゾーンと同居してもおかしくはないのでした。さすがデッカ。

Mendelssohn : Octet in E Flat Major, op20 / The Wiener Oktett (1973 Decca)