旧来のファンには問題作、新しいファンには80年代前半の王道作品です。70年代を総括した前作から3年近くが経過し、再びファンの前に姿を現したボウイはまるで別人でした。何と言っても普通に凄くカッコよかったです。

 ボウイは、誰も予想だにしなかったことに、シックのナイル・ロジャースをプロデューサーに迎え、ニューヨークのパワー・ステーション・スタジオで、ボブ・クリアマウンテンのミックスによるアルバムを制作しました。

 これらの名前は、80年代前半の音楽シーンの主流中の主流、王道中の王道です。この時代のサウンドを記号的に表そうとする時には必ず名前があげられること請け合いです。そこにボウイの才能がのっかるわけですから傑作にならないわけがない。

 実際、私は80年代の音と言われれば、このアルバムのタイトル曲の一部を流せばよいと思っています。英国のニュー・ロマンティクス勢のサウンドもこれで代表できてしまうほどよく出来たサウンドだと思います。

 アイデアは「ホーン・セクションやコーラスを多用したゴージャスなビッグ・バンド」というものだそうです。それをクリアな音色のダンス・ビートで実現していきました。ミュージシャンはほとんどがナイル・ロジャースが引っ張ってきました。ボウイにしては珍しいです。

 しかし、それだけではないところがボウイらしいところ。ナイル・ロジャースにプロデュースを依頼するより前に、ブルース野郎のスティーヴィー・レイ・ヴォーンの起用を決めています。スティーヴィーは当時ほとんど無名で、この作品が出世作となりました。

 ルーツは同じとはいえ、不思議な取り合わせです。ディスコ・ファンクのナイル・ロジャースにスティーヴィーのブルース・ギターです。しかも、このギターは随所で大活躍しています。どちらが欠けても画竜点睛を欠いた感じになっていたことでしょう。

 アルバムは怒涛のシングル曲三連荘で始まります。一曲目の「モダン・ラヴ」は、連歌のような歌詞が印象的なポップさ全開の力作です。二曲目はボウイがプロデュースしたイギー・ポップの「イディオット」所収の「チャイナ・ガール」で、魅惑の低音ヴォイスが艶めかしいです。

 そして7分を越えるタイトル曲です。これぞ80年代サウンドの典型となる楽曲で、スティーヴィーのギターも大活躍します。この三連荘からボウイ・ファンになった人も数多いことでしょう。黄色いスーツ姿のボウイは本当にカッコよかったです。

 さらには、ナスターシャ・キンスキーの主演した映画「キャット・ピープル」の主題曲があります。全く余談ですが、インドの映画館でみたこの映画は日本語字幕入りでした。ついでにぼかしも入っていまして...。ジョルジョ・モロダーとボウイの夢の共作です。

 このアルバムは捨て曲のない名作だと思います。ボウイ物語に過度に足を踏み入れさえしなければ、80年代を代表するアルバムとして素直に楽しめるはずです。ボウイのボーカルも迷いがない。力強く迫ってまいります。三度目ですが、本当にカッコいいです。

Let's Dance / David Bowie (1983 EMI)