チャーリー・パーカーと言えばモダン・ジャズの巨人にして、破滅型の人生を歩んだ人ですから、ストリングスと共演などというぬるい所業は全く似合いません。そう思ったのは私だけではなくて、プロデューサーのノーマン・グランツも同じです。

 ストリングスすなわちムード・ミュージックという思い込みは今でもある程度生きています。このセッションが行われた1949年頃はなおさらそうで、パンクみたいなものだったモダン・ジャズのミュージシャンと共演するなど非常識極まりないものでした。

 猛反対したノーマンを押し切って、強引にストリングスとの共演を実現させたのはパーカー自身の主張でした。その結果は大成功で、グランツの考え方のみならず、ジャズ界全体のストリングス物に対する考え方を変えてしまいました。私も変わりました。

 セッションは1949年、50年、52年の三回にわたって行われています。後に完全盤が出ますが、LP時代には二枚のアルバムに分かれて発表されています。そのうちの一つがこの「エイプリル・イン・パリ」です。

 これは、そのアルバムにもう一枚のアルバムから4曲を加えた16曲を収録した作品です。ジャケットは本邦初のオリジナル・ジャケットだそうです。何だかおばさんのような姿ですけれども、どうやらチャーリー・パーカーのようです。

 各楽曲はいずれもスタンダードばかりです。ストリングスとの共演でスタンダードを演奏するわけですから、パーカーは、いつものように即興バリバリとはいかず、ある程度、決められたメロディーに忠実にサックスを吹いています。

 ストリングスをバックにパーカーがサックスで歌っていると思えば分かりやすいです。サックスは人の声に近いということが良く分かりますし、しばしば使われる歌心という言葉が、これほど腑に落ちる演奏はありません。

 パーカーのサックスは聴く人すべてが絶賛しています。ムード音楽に堕してしまいかねないフォーマットですが、何よりも音が素晴らしく綺麗ですし、そこに溢れる歌心が素晴らしい。美しいとか穏やかとかパーカーらしくない賛辞が素直に似合います。

 共演陣もいいです。時にソロを分かち合うミッチ・ミラーのオーボエや、ミョール・ローセンのハープなどの色合いも見事ですし、サックスを生かすことを第一に考えたような心憎いストリングス・アレンジメントだと思います。

 本作ではA面がジミー・キャロル、B面がジョー・リップマンによるストリングス・アレンジになっていて、微妙に異なるところも聴きどころです。パーカー・ファンの間にはストリングス・アレンジを酷評する意見が多いですが、それには同調しかねます。

 先鋭的なチャーリー・パーカーももちろん素晴らしいですが、こうしたスタンダードを正面から吹いている姿もいいものです。初心者向きと言われますが、初心者にも耳慣れた人にも等しく新鮮に響く作品ではないかと耳慣れていない私は思います。

April In Paris / Charlie Parker with Strings (1952 Verve)