多くの人に共通するのではないかと思いますが、私はSMAPの「夜空ノムコウ」の作詞者として初めてスガシカオを知りました。特にSMAPのファンと言うわけではない私の耳にも何度も届いた1998年のSMAP初のミリオンセラーです。

 ♪あの頃の未来に僕らは立っているのかな♪という一節を始め、この曲の作詞者は只者ではないぞと思った人は多かったことでしょう。大人になってこの一節を聴くと、切なさが胸を詰まらせます。天才詩人。

 しかし、それだけではアルバムまでは行きつきません。アルバムを入手する直接のきっかけは村上春樹です。彼の音楽エッセイ集である「意味がなければスイングはない」の中で村上さんがスガシカオを採り上げていたんです。

 私が読んだ村上作品は実はこのエッセイ集だけです。ただしアンチではありません。縁がないだけ。言い訳する必要もなのですが、一応お断りしておきます。そういうニュートラルな立場で彼のエッセイを読んだら、何とスガシカオの音楽が生き生きと伝わってきたことか。

 さっそくエッセイに取り上げられていたスガシカオのデビュー作「クローバー」を購入したという次第です。余談中の余談ですが、ジャケットを見て、一瞬、千原ジュニアかと思いました。ブックレットを繰っていくとますます似ています。

 スガシカオは「酔っぱらいながら歌詞が書けること」を特技とするソロ・アーティストで、高校時代に女の子にモテたくて軽音楽部に入部して、バンドを結成したあたりから音楽活動が始まりました。当時はアバンギャルド・ノイズ・ポジバン系のユニットに落ち着いたそうです。

 しかし、ソウルと出合って以降はソウル一直線、ボーカルには、大学時代にカラオケ店での熱唱を後輩に絶賛されて開眼しています。ソウルを歌っていたとしたら、これ、凄いです。ソウルのボーカルは掛け値なしに凄いですから。

 ソニーのオーディションに一次合格するも、「人として、華がない」と二次で落選、その後、いろいろあってキティから1997年2月にデビューします。30歳でした。以上、公式サイトの完全自己申告プロフィールから編集してみました。なかなか面白い人です。

 このデビュー・アルバムは彼のプロフィールから想像される通り、かなりソウル、それもファンクっぽいです。「夜空ノムコウ」から入ると想像できない音が出てきます。ドラムやベースの録音の仕方は70年代のファンクを意識しています。

 彼はプリンスとスライ&ザ・ファミリー・ストーンをフェイバリットの筆頭に挙げていますが、このアルバムでのサウンドはスライの影響が大きいことが分かります。その一方でJポップらしくもあり、さらに天才詩人の本領を発揮する歌詞も見事です。

 デビュー・アルバムにしてこの充実ぶりは凄いです。村上春樹もお気に入りに挙げている「黄金の月」などは本当に素晴らしいと思います。その後の活躍も約束されていたものだったと今なら言えます。ソニーさん、残念でした。

Clover / Suga Shikao (1997 Kitty)